新規事業は「まず動く」から始まる?141人が集結した産業イノベーションサミット「動×DO×道」

新しい技術やアイデアを社会へ届けるには、優れた研究成果や事業計画だけでなく、組織の枠を越えて協力する人や、試行錯誤を続けられる環境が欠かせません。一方、前例のない挑戦には不確実性が伴います。「最初の一歩をどう踏み出すか」「社内で事業化を進めるべきか、それとも外へ出るべきか」「挑戦を一過性で終わらせないために何が必要か」と悩む人も少なくないでしょう。

株式会社インディージャパン(INDEE Japan)は2026年9月18日、東京・日本橋ライフサイエンスハブで、産業イノベーションサミット「動×DO×道」~今やる。すぐやる。ずっとやる。~を開催しました。企業や大学、研究機関、スタートアップなどから、新規事業やオープンイノベーションに携わる141人が参加。産業創出、スピンアウト/カーブアウト、組織風土という3つのテーマを通じて、挑戦を行動へ移すための経験や考えが共有されました。

産業イノベーションサミット「動×DO×道」に参加する来場者
会場の様子

心・体・継続をつなぐ「動×DO×道」

オープニング・キーノートに登壇したのは、INDEE Japan代表取締役マネージングディレクターの津嶋辰郎氏です。津嶋氏は、日本には「与えられたゴールを実行する社会」から、自ら目指す姿を描いて挑戦する「自らゴールを作る社会」への転換が必要だと呼びかけました。

オープニング・キーノートで講演するINDEE Japanの津嶋辰郎氏

その姿勢を表した言葉が、サミットの名称にもなった「動×DO×道」です。「動」は心を動かして情熱やワクワク感を取り戻すこと、「DO」は考えるだけで終わらせず、体を使って一歩を踏み出すこと、「道」は実現するまで諦めずに続けることを意味します。意思を持ち、実践し、継続するという一連の流れが、当日の各セッションを貫く軸となりました。

技術を「事業」から「産業」へ運ぶ視点

第一セッションでは、産業デベロッパー、宇宙産業、医療産業という異なる分野で活動する実践者が、「技術は、どうすれば『事業』を超えて『産業』になるのか」を語り合いました。

新産業創出について語り合う第一セッションの登壇者

三井不動産の三枝寛氏は、周囲から社会的な価値を評価された経験が、目指す方向への確信につながったと振り返りました。慶應義塾大学大学院の白坂成功氏は、東日本大震災をきっかけに衛星写真を社会で活用したいと考え、宇宙スタートアップの創出へ踏み出した経緯を紹介。LIFESCAPES創業者の牛場潤一氏は、研究成果を社会へ届けるため、アカデミアとは異なる事業化の世界を模索してきた経験を語りました。

分野は違っても、登壇者に共通していたのは、技術そのものだけでなく、それを使い、役立てる人の姿を具体的に思い描いていたことです。また、先の見えない状況を「面白い」「ワクワクする」と前向きに捉えていた点も印象的でした。技術を産業へ育てるには、人や社会との接点をつくり、不確実な状況でも動き続ける姿勢が重要だと見えてきます。

大企業の外へ出て高める事業化の速度

第二セッションのテーマは、大企業からのスピンアウト/カーブアウトです。iFactory代表取締役社長CEOの齊藤隆夫氏と、MENOU取締役COOの根井正洋氏が、創業までの経緯や現在の事業について紹介しました。

スピンアウトとカーブアウトをテーマに語る第二セッションの登壇者

齊藤氏は、大企業では不安を取り除くための意思決定が重視される一方、事業化を早めるには迅速に判断できる環境が必要だったと説明しました。技術や情報を広く展開し、その場で決断できる環境を求めたことが、カーブアウトにつながったといいます。

根井氏も、品質保証などが求められる大企業では、短期間で製品を更新することが難しかったと振り返りました。現場で使われないまま眠る検査装置を見てきた経験から、一日でも早く実用的な装置を届けたいと考え、スピンアウトを選択。「このチャンスを逃したくなかった」と当時の思いを語りました。

ただし、会社の外へ出ることは、以前の所属企業との関係を断つことではありません。iFactoryは前職を含む複数の企業と株主・パートナーとして連携し、MENOUもニコンを主要顧客の一社としています。既存の技術や設備、人とのつながりを生かしながら、意思決定の速度を高めるところに、この選択肢の特徴があります。

制度だけでは生まれない「挑戦する風土」

第三セッションでは、事業を継続的に生み出す組織風土が取り上げられました。NECの森田健氏は、約10年間にわたる変革について、経営陣が会社の方向性を共有するところから始めたと説明。役員によるオフサイトミーティングには約400時間をかけ、社員の声と向き合いながら、コミュニケーションや働き方にも変化を広げていったと語りました。

事業を生み出す組織風土について議論する第三セッションの登壇者

一方、島津製作所の後藤洋臣氏と赤澤礼子氏は、現場の好奇心から人が自然に動き出す社風を紹介しました。部門や階層を越えて協力を求めたり、複数部門が自発的に費用を出し合ったりすることもあるといいます。活動を一律に統制するのではなく、事業化の方法や人のつながりを整えることで、現場の力を組織全体へ生かそうとしています。

Japan Innovation Network代表理事の仙石太郎氏からは、「良い風土になったらイノベーションが起きるのではない」という視点も示されました。挑戦を続ける行動の蓄積が、結果として組織の風土をつくるという考え方です。経営主導のNECと、現場から動き出す島津製作所では方法が異なるものの、日々の行動を積み重ねる重要性は共通しています。

イノベーションへの継続的な挑戦と組織風土について語る登壇者

参加者の対話へつながった実践者の言葉

参加者からは、「事業から産業まで、夢の大きさが大事だと感じた」「新しいことを進める難しさを言語化してもらえた」「実体験に根ざした話に価値があった」といった感想が寄せられました。

産業イノベーションサミットのセッションに耳を傾ける参加者

交流会では、セッション中に聞ききれなかった内容を掘り下げるアフタートークも行われ、登壇者と参加者の間で活発な対話が続きました。情報を受け取るだけではなく、それぞれの立場や経験を持ち寄って意見を交わす時間も、新たな行動を後押しする機会になったようです。

登壇者と参加者が意見を交わしたサミット終了後の交流会

小さな行動の積み重ねが新しい道に

今回のサミットから浮かび上がったのは、イノベーションに決まった一つの進め方はないということです。技術を社会へ届けるには利用者の姿を具体的に描く必要があり、事業化を加速させる方法としてスピンアウトやカーブアウトが選ばれる場合もあります。組織風土についても、経営陣が方向を示す方法と、現場の好奇心を起点にする方法の両方が紹介されました。

それぞれに共通するのは、考えが整うまで待つのではなく、まず行動して反応を受け取り、次の一歩へつなげている点です。行動すれば、顧客の思いがけない反応や、自分たちだけでは見えなかった課題に出会うことがあります。その発見が思考の枠を広げ、新しい選択肢を生むのかもしれません。「動×DO×道」という言葉は、大きな変革だけでなく、目の前で始められる小さな実践の大切さも伝えています。

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