
片手で気軽に食べられるおにぎりは、家庭の食卓や弁当、コンビニエンスストアなど、日本の暮らしに深く根づいた存在です。使う米や具材、握り方によって味わいが変わり、素朴な料理でありながら、地域や作り手の個性も映し出します。近年では海外でも専門店や関連商品を目にする機会が増え、日本の食文化を伝える身近な入り口の一つとなっています。
一般社団法人おにぎり協会は、2026年10月17日から21日までフランスで開催されている国際食品見本市「SIAL Paris 2026」に出展しました。会場では、東京・浅草の老舗おにぎり専門店「おにぎり浅草宿六」の三代目・三浦洋介さんが実演を担当。日本産米5銘柄と3種類の具材を使い、来場者の目の前で握ったおにぎりを提供しています。
小寺農林水産副大臣も訪れたパリの実演会場
SIAL Parisは、世界各地の食品や食関連ビジネスが集まる国際的な見本市です。おにぎり協会のブースでは、会期中の11時、13時、15時に実演と試食を実施。各回とも多くの来場者が集まり、握りたてのおにぎりを味わっています。
10月18日には、小寺裕雄農林水産副大臣も会場を訪れ、おにぎりを試食しました。おにぎり協会の代表理事を務める中村祐介さんが、今回のために制作した冊子を使いながら、出展の内容や取り組みを紹介しました。


今回の出展は、一般社団法人全日本コメ・コメ関連食品輸出促進協議会による、日本産の米や米関連食品の輸出促進プロモーションの一環です。おにぎりを完成した食品として紹介するだけでなく、米、具材、海苔、炊飯、握り方までを一つの文化として届けています。
形を保ちながら口でほどける職人のおにぎり
実演を担当する三浦さんは、1954年創業の「おにぎり浅草宿六」の三代目です。同店は東京で最も古いおにぎり専門店とされ、『ミシュランガイド東京2019』への初掲載以降、複数年にわたってビブグルマンに選ばれました。

実演で紹介されているのは、米選びや炊飯、塩加減、握る力によって生まれる味わいと食感です。手に取ったときには形が崩れず、口に入れるとやさしくほどけるように仕上げます。材料がシンプルだからこそ、炊き上がりや手の動きが完成度を左右することを、目の前で握る工程から伝えています。
見る、香りを感じる、手に取る、味わうという一連の体験は、言葉だけでは説明しにくい職人の技を届ける方法にもなります。来場者に手渡される一つのおにぎりが、日本の米文化を知るきっかけになっているようです。
5日間で味わう日本産米5銘柄の個性
会場では、5社が提供する日本産米を日替わりで使用しています。紹介されるのは、くりや株式会社の高知県四万十産「にこまる」、東洋ライス株式会社の「金芽ロウカット玄米」、千田みずほ株式会社の山形県産「はえぬき」、株式会社松原米穀の北海道産「さんさんまる」、木徳神糧株式会社の茨城県産「にじのきらめき」です。
それぞれをおにぎりにすることで、米の香りや食感といった違いを分かりやすく伝えます。日本産米を一括りにせず、産地や品種、加工方法による個性に触れられる点も今回の展示の特徴です。
炊飯には、Panasonicの業務用IH炊飯器「SR-PGE54SXB」を使用。実演は、おにぎり協会の認定店であるベルリンのおにぎり専門店「TOKYO GOHAN」のスタッフ2人が支えています。日本の職人と欧州で活動する専門店が協力することで、現地での継続的な普及にもつながる体制がつくられています。
鮭・ツナマヨ・煮穴子を日本産米とともに
提供される具材は、鮭、ツナマヨ、煮穴子の3種類です。火を通した鮭の旨み、ツナマヨのまろやかさ、スライスした煮穴子のやわらかな食感を、それぞれ日本産米と組み合わせています。煮穴子には、対馬水産株式会社の製品が使われています。
おにぎりを包むのは、朝倉海苔店の「おにぎり浅草宿六用焼海苔」です。有明海産の海苔を縦半切にしたもので、米や具材とともに、日本のおにぎりを形づくる大切な要素として紹介されています。
親しみやすい鮭やツナマヨに加え、煮穴子を用意した構成からは、日常的なおにぎりの食べやすさと、専門店ならではの味わいの両方が感じられます。具材の違いを入口に、自分に合ったおにぎりを選ぶ楽しさも伝わりそうです。

英語とフランス語の冊子で伝える食文化
出展に合わせて、英語とフランス語を併記したA5判・全8ページの冊子も制作されました。写真とイラストを交えながら、米から広がる日本の食文化、おにぎりの具材、握り方、食卓での楽しみ方などを紹介しています。

実演の場を離れた後でも内容を振り返れるほか、おにぎりを店舗や商品として展開したい海外事業者にとっては、メニュー開発の参考資料にもなります。冊子のPDFは、おにぎり協会の英語ページでスマートフォンから閲覧できる形で公開されています。
おにぎり協会は、海外で店舗や商品を展開したい事業者に向けて、米や具材の調達、サプライチェーンの構築、商品・メニュー開発などの相談にも対応しています。また、国や地域によって異なる米やおにぎりの味の好みを調査し、現地の食文化や習慣に合った商品開発、日本産米の販路開拓に役立てる考えです。
一つのおにぎりから始まる日本の食文化との出会い
今回の取り組みで印象的なのは、おにぎりを単に試食してもらうのではなく、米の銘柄、炊き方、握る力、具材、海苔までを一つにつなげて紹介している点です。職人が目の前で握る姿には、完成品だけを見たときには気づきにくい細やかな工夫が表れます。さらに、英語とフランス語の冊子や現地で活動する専門店との連携によって、その場限りの体験に終わらない広がりも生まれています。海外の食文化に合わせた工夫は必要ですが、日本産米の個性や職人の技を丁寧に伝えることは、おにぎりへの理解を深める土台になります。手のひらに収まる一つの料理が、生産者、職人、海外の事業者、そして食べる人を結ぶ存在になっていくのか、今後も気になるところです。

