
家族の介護が必要になったとき、これまで通り仕事を続けられるでしょうか。
高齢化が進む日本では、介護を必要とする人が増える一方で、その暮らしを支える人材の不足が深刻化しています。介護サービスを十分に受けられなくなれば、その負担は家族へと広がり、働き方や企業活動にも影響を及ぼしかねません。
そんな介護人材不足に対し、新たな人材を増やすだけでなく、すでに資格や経験を持つ人たちの「働ける時間」に目を向けているのが、カイテク株式会社です。
2026年9月25日、同社は東京都内で、介護人材不足による社会への影響や、その解決に向けた取り組みを紹介するメディア向け説明会「カイテク メディア向けラウンドテーブル」を開催しました。
当日は、代表取締役社長の武藤高史氏によるプレゼンテーションに加え、サービスの導入企業である株式会社SOYOKAZEの人事部採用チーム部長・大橋邦彦氏を交えたトークセッションも実施。介護現場の実情や、新しい働き方を取り入れたことで生まれた変化が語られました。
介護人材不足がもたらす、約9兆円の経済損失

介護業界が抱える人材不足は、今後さらに深刻化すると予測されています。
厚生労働省の推計によると、2040年度には約57万人の介護職員を追加で確保する必要があります。また、経済産業省の試算では、2030年に仕事と家族の介護を両立することが難しくなることで生じる経済損失は、約9兆1,792億円に達するとされています。
これは介護人材不足そのものによる損失額ではなく、仕事と介護の両立困難に伴う離職や生産性の低下などを含めた試算です。

武藤氏は、介護職員の不足によってサービスの提供が難しくなれば、その負担が家族へと広がり、働きながら介護を担う「ビジネスケアラー」の増加につながる可能性を指摘しました。
自身も祖父母の介護を経験し、介護サービスに支えられた家族の一人です。その経験が、2018年にカイテクを創業するきっかけになったといいます。
介護人材不足は、もはや介護施設だけの問題ではありません。家族の暮らしや働き方、さらには社会全体の経済活動にも関わる課題なのです。
人材不足を「時間」で解決する。カイテクが着目した「埋蔵時間」

介護施設では、一日を通して人手が足りないわけではありません。早朝の起床介助や朝食介助、日中の入浴介助、夜間の見守りなど、施設ごとに人手が必要な時間帯や業務が異なります。
こうした状況に対してカイテクが提案しているのが、資格や経験を持ちながら十分に働けていない人たちの「埋蔵時間」を活用するという考え方です。
家庭の事情や体力、通勤距離などの制約から、フルタイムで働くことは難しくても、週に1日、あるいは数時間であれば働ける人もいます。同社は、そうした人たちと、必要な時間帯に人材を求める介護施設をスポットワークでつないでいます。

カイテクの試算では、約480万人の有資格者が月に平均4.6回、1回あたり6.2時間働いた場合、年間約16.6億時間の労働時間を生み出せる可能性があるといいます。
もちろん、試算上の労働時間をすべて実際の介護現場に届けられるわけではありません。それでも、新たに人を増やすだけでなく、すでに地域にいる専門職の時間を活かすという考え方は、人材不足に対する新たなアプローチとなっています。

また、カイテクが目指しているのは、一度きりの勤務ではありません。同じ施設で繰り返し働くことで、利用者の特徴や施設のルールを理解した「顔なじみの専門職」を増やし、地域に頼れる人材のネットワークをつくることも大切にしています。
実際に、同社によると、同じ事業所で2回以上勤務するワーカーの割合は90%、10回以上勤務する割合は70%に上っています。
派遣の利用を約3分の1に。SOYOKAZEが語る現場の変化

後半のトークセッションでは、全国で介護サービスを展開するSOYOKAZEの大橋氏が、実際の介護現場で起きている課題や、カイテク導入後の変化について紹介しました。

大橋氏によると、特に人手が不足しやすいのは早朝と夜勤の時間帯です。対応できる職員が限られるため、特定の人に業務が集中し、疲弊や離職につながってしまうケースもあったといいます。
そうした状況のなか、同社が課題として抱えていたのが、人材派遣にかかる費用でした。そこで、派遣への依存を減らしながら、直接雇用による採用も強化するためにカイテクを導入しました。

大橋氏は、導入後、派遣の利用規模を従来の約3分の1に抑えることができたと説明。さらに、毎月採用する人材の約20%が、カイテクで勤務した経験のある人からの直接雇用になっているといいます。
採用面だけでなく、既存職員の働き方にも変化が生まれました。
例えば、お盆期間には学童保育が休みとなり、育児をするために休暇を取りたい職員が増えます。SOYOKAZEでは、そうした時期にカイテクを活用して不足する人員を補い、職員が休みを取りやすい環境づくりにつなげています。
必要な日だけ人材を確保できる仕組みは、施設の運営を支えるだけでなく、そこで働く職員の暮らしにも役立っているようです。
外部人材への不安から、現場を見直す新たなきっかけへ

一方で、カイテクの導入が最初から順調だったわけではありません。
大橋氏は、導入当初、現場から「本当に勤務当日に来てくれるのか」「どのようなスキルや人柄の人が来るのか」といった不安の声が多く上がっていたことも明かしました。
こうした不安を和らげるうえで役立ったのが、カイテクのカスタマーサクセス担当者による支援です。担当者が現場に入り込み、施設ごとの課題や業務内容を把握しながら、受け入れ体制づくりをサポートしました。
また、ワーカーと事業所がお互いを評価できる仕組みへの理解が進んだことも、安心感につながったといいます。
さらに、導入後には当初想定していなかった変化も見られました。それが、外部人材による第三者の視点です。
普段とは異なる施設で働いているワーカーが加わることで、介護の方法や職場の環境について、新たな気づきが生まれるケースがあるそうです。
大橋氏は、外部の視点が入ることで新たな気付きが生まれ、職員一人ひとりが日頃のケアを見直すきっかけになっていると語りました。
人手不足を補うための仕組みが、介護現場の働き方やケアのあり方を見つめ直す機会にもなっているようです。
地域に眠る専門職の力を、必要とする介護現場へ
2018年の創業から事業を拡大してきたカイテクは、2026年9月時点で登録ワーカー数約141万人、登録事業所数約3.2万カ所となり、47都道府県すべてでマッチング実績を持っています。
さらに、全国7つの自治体と連携協定を締結し、介護人材の確保に向けた地域単位での取り組みも進めています。
今後は介護・看護に加え、薬剤師や医師などの専門職へのサービス拡大や、シフト管理サービス「カイテクシフト」の普及を通じて、地域を越えた人材活用にも取り組む方針です。
介護人材不足という大きな課題を、採用だけで解決することは簡単ではありません。しかし、資格や経験を持つ人たちの数時間が、誰かの休暇を支え、施設の運営を助け、介護を必要とする人の暮らしにつながる可能性があります。
人を増やすことだけでなく、今ある人材の力をどう活かしていくか。今回の説明会は、これからの介護の働き方を考えるきっかけとなるものでした。

