
健康で自分らしく過ごせる時間を、どこまで延ばせるのでしょうか。平均寿命が延びる一方で、加齢に伴う身体機能の低下や医療・介護の負担は、個人だけでなく社会全体に関わる課題になっています。近年は老化の仕組みを科学的に捉える研究も進み、AIやバイオテクノロジーを活用した新たな取り組みが世界各地で生まれています。
ただし、研究成果がそのまま日々の暮らしに届くわけではありません。医療や製品、サービスとして活用するには、技術開発に加え、事業化や制度設計、社会への伝え方まで考える必要があります。こうした幅広いテーマを話し合う場として、一般財団法人ZERO Foundationが設立したコミュニティ「Longevity Minds」は、2026年9月15日、東京で「Longevity Minds Summit Tokyo 2026」を初開催しました。
世界の研究者と起業家が東京に集まった一日
「Longevity Minds Summit Tokyo 2026」は、スウェーデン・ストックホルム発のロンジェビティコミュニティ「age.house」との共催で行われた完全招待制のイベントです。
会場には、日本や欧米などから老化研究、生命科学、AI、ヘルスケアの研究者をはじめ、起業家、臨床医、企業経営者、投資家、政策関係者らが集まりました。研究分野だけに閉じず、科学とビジネス、政策を横断して健康寿命の延伸を考える点が特徴です。
当日は「研究」「政策」「科学コミュニケーション」「研究開発」という4つの視点からセッションを実施。老化の仕組みに関する科学的な知見だけでなく、研究成果をどのように社会へ届けるのかについても意見が交わされました。
「老化は止められるのか」を科学と事業から考える

「How to Stop Aging」と題したセッションには、米国のIntegrated Biosciencesで共同創業者兼Head of Aging Biologyを務める大森徳貴氏と、age.houseおよびKTH LongevityのFounderであるWilliam F. Andrén氏が登壇しました。
中心となった問いは、老化を避けられない自然現象として受け止めるのか、それとも科学的に理解し、働きかけることのできる生物学的なプロセスとして捉えるのかというものです。
シリコンバレーで研究と事業の両面から健康寿命の延伸に取り組む大森氏の視点を交え、老化研究の科学的知見や新しい技術の可能性が紹介されました。同時に、研究成果を事業へつなげる際に生じる課題にも目が向けられています。研究の進歩だけでなく、それを社会で利用できる形に整える過程まで含めて考える時間となりました。
科学の進歩を受け止める政策と制度のあり方

研究や技術が進んでも、それを社会で安全に活用するための制度がなければ、広く普及させることは難しくなります。「Science × Policy: Building a Society for Longer, Healthier Lives」では、文部科学省の科学技術・学術政策局長などを歴任し、現在は順天堂大学特任教授を務める菱山豊氏が登壇しました。
テーマとなったのは、科学技術によって健康寿命を延ばせる可能性が高まったとき、社会や制度にどのような変化が求められるのかという問いです。再生医療などの先行分野における経験も踏まえ、新しい医療技術を普及させるための制度設計や、長寿社会にふさわしい政策について議論が行われました。
技術の新しさに注目するだけでなく、利用のルールや社会の受け入れ方を同時に考える必要性が見えてきます。
専門知を多くの人へ届けるコミュニケーション

研究成果を社会へ届けるうえでは、情報の伝え方も欠かせません。「Translating Science for Millions」には、科学や健康、経済、哲学などを扱うYouTubeチャンネル「What I’ve Learned」を運営するJoseph Everett氏が登壇しました。同チャンネルの登録者数は230万人を超えると紹介されています。
セッションでは、優れた科学的な発見を専門家の間だけにとどめず、どのように一般の人へ伝えるのかが話し合われました。Joseph氏が自身の身体や生活で試した際のデータも用いながら、研究者と一般社会の間にある情報や理解の隔たり、科学情報を伝える際の信頼性などについて意見が交わされました。
健康に関する情報は身近である一方、受け取り方によっては誤解も生じやすい分野です。分かりやすさと正確さをどのように両立させるかも、社会実装を進めるうえで大切なテーマといえそうです。
XPRIZE決勝チームが語った健康寿命への挑戦

「Japan Takes on XPRIZE Healthspan」では、賞金総額1億100万米ドルの国際コンペティション「XPRIZE Healthspan」で決勝に進出した日本のチームが集まりました。同コンペティションでは、加齢に伴う筋力、認知機能、免疫機能の改善が競われています。
登壇したのは、Japan Longevity Consortiumを率いる堀江重郎氏、森永製菓グループのMorinaga Nutritional Foods, Inc.に所属する松井悠子氏、東京大学大学院理学系研究科・合田研究室のChoi Yonghyun氏です。Jun Suto氏の進行のもと、各チームの研究開発の進捗や、健康寿命の延伸に向けた技術上の課題が共有されました。

セッション終了後には参加者同士の交流も行われ、研究者と企業、起業家と投資家など、異なる立場の人々が研究開発や事業化、国際連携について意見を交換しました。
研究の成果を暮らしへつなぐための接点
日本は長寿国として知られる一方、急速な高齢化に直面しています。生命科学や医療、製造技術などの研究基盤を人々の健康へ生かすには、研究者だけでなく、企業、起業家、投資家、政策関係者などの協力が欠かせません。今回のサミットは、立場や国境を越えて、それぞれの知識や課題を持ち寄る接点になったといえます。
印象的なのは、老化研究そのものだけでなく、事業、制度、情報発信まで一続きのテーマとして扱われた点です。健康寿命をめぐる技術には期待が集まる一方、研究段階の知見と実際に利用できる医療やサービスは分けて受け止める必要があります。科学的な根拠や安全性を丁寧に確かめながら、研究成果を社会にどう届けるのか。今回生まれた分野横断のつながりが、今後どのような研究協力や事業へ結びついていくのか、引き続き注目されます。

