
駅の改札を通るとき、ICカードやスマートフォンを取り出す動作は、日常の中ではごく小さなものです。ただ、荷物を持っているときや混雑した駅を急いでいるときには、その一瞬が意外と気になることもあります。鉄道駅が移動だけでなく、買い物や食事、街での活動とつながる場所になっている今、改札の通過体験にも新しい選択肢が求められているといえそうです。
日立製作所と東武鉄道は、オムロン ソーシアルソリューションズ、日本信号、東芝、パナソニック コネクトと連携し、生体認証サービス「SAKULaLa(サクララ)」を活用した顔認証改札の仕組みを実現しました。国内の主な改札機と連携できる点が特徴で、2026年7月15日から東武東上線の池袋駅などで稼働が始まります。
改札機を入れ替えずに顔認証へ

今回の仕組みは、既存の改札機に顔認証用のカメラを追加し、「SAKULaLa」などとネットワーク接続することで、ウォークスルー型の顔認証改札として利用できるようにするものです。改札機そのものを新しく入れ替える必要がないため、鉄道事業者にとっては導入期間や初期コストを抑えやすい仕組みとされています。

対応するのは、国内の主要な鉄道改札機メーカーであるオムロン、日本信号、東芝の改札機です。3社は国内私鉄などで高いシェアを持つとされており、幅広い鉄道事業者が活用しやすい基盤として位置づけられています。顔認証改札を一部の実証的な取り組みにとどめず、既存設備を活かしながら広げるための環境づくりが進められている形です。
池袋駅で始まる大規模ターミナルでの導入
都内初の事例として導入されるのが、東武東上線の池袋駅です。池袋駅は2025年度の1日平均乗降人員が約42万人という大規模ターミナルであり、混雑する環境で顔認証改札をどのように運用していくかを確認する場にもなります。
同じく2026年7月15日には上板橋駅でも稼働を開始し、2026年9月までには東武アーバンパークラインの船橋駅、馬込沢駅でも導入が予定されています。さらに2026年度中にはICカードと併用できる顔認証改札機の開発と、東武線の一部路線への導入も計画されています。2027年度以降は、東武線での設置箇所拡大に加え、東武鉄道以外の鉄道事業者への展開もめざすとしています。
個人情報を鉄道各社が持たない仕組み

「SAKULaLa」は、会員情報を一元管理する生体認証サービスです。利用者は必要な情報を一度登録しておけば、導入先ごとに追加の手続きを行わずにサービスを利用できる設計になっています。鉄道各社は、利用者の個人情報や生体情報を直接取得せずに顔認証改札を提供できるとされています。
セキュリティ面では、日立の公開型生体認証基盤「PBI」と、パナソニック コネクトの顔認証技術を組み合わせています。生体情報を復元できない形に暗号化しながら、駅の改札に求められるスムーズな通過にも対応する考えです。顔認証という便利さの一方で、情報の扱いに不安を持つ人も少なくないため、こうした保護技術の説明は利用者にとっても大切なポイントになりそうです。
改札から買い物まで広がる手ぶら体験

「SAKULaLa」は、改札の入出場だけでなく、決済、本人確認、ホテルのチェックイン、オフィスやスポーツクラブの入退館など、複数の場面での活用が想定されています。2024年4月から提供されており、2026年7月時点で2万人以上が登録しているサービスです。
今後は、東武百貨店をはじめとする駅周辺の商業施設や飲食店などにも導入を広げる方針です。鉄道での移動と、その先の買い物や街での体験を一つのサービス上でつなぐことで、利用者がスマートフォンやICカードを取り出さずに過ごせる場面を増やしていく狙いがあります。なお、顔認証改札を利用する場合は定期券の所持が必要とされています。
駅の通過体験から見える生活インフラの変化
今回の取り組みで印象的なのは、新しい改札機を大きく置き換えるのではなく、既存設備を活かしながら顔認証機能を加えている点です。鉄道のように多くの人が日々利用するインフラでは、便利さだけでなく、導入しやすさや安全性、混雑時の安定性も欠かせません。池袋駅のような大規模ターミナルでの運用が進むことで、顔認証改札がどの程度日常の移動に自然になじんでいくのか、今後の広がりが注目されます。

