
博士課程で培われる専門性は、研究の世界だけでなく、企業の研究開発や新規事業、社会課題の解決にもつながる可能性を持っています。一方で、博士人材がどのような形で企業と出会い、自身の経験をどう生かせるのかは、学生側にも企業側にも見えにくい部分があります。進路の選択肢が十分に可視化されていないことは、キャリア形成を考えるうえで大きな課題のひとつです。
こうした中、株式会社grubioは、株式会社マイナビおよび東京科学大学田町キャンパス土地活用事業 産学官連携コンソーシアム準備会と連携し、博士人材の多様なキャリア形成を支援する「企業×博士学生による対話型研究プロジェクト」を開始しました。博士の当事者視点を起点に、企業との相互理解を深める場づくりを進める取り組みです。
博士人材の進路にある「見えにくさ」
日本では、博士人材のキャリアをめぐる課題が近年あらためて注目されています。博士号取得者数は諸外国と比べて低い水準にあり、民間企業への就職割合も限定的な状況にとどまっているとされています。また、卒業後の進路が明確でないケースが約3割あることも示されており、博士課程修了後の道筋をどのように広げるかが問われています。
文部科学省は2024年に「博士人材活躍プラン~博士をとろう~」を取りまとめ、博士課程に進みやすい環境づくりや博士人材の活躍促進を進めています。ただ、企業側にも博士人材の採用や活用の場をどう整えるかという課題があります。学生と企業が互いの考えや不安を直接共有できる機会は、キャリアの選択肢を広げるうえで重要になりそうです。
少人数の対話でキャリアの選択肢を探る

今回のプロジェクトでは、企業と博士学生が少人数で意見交換を行い、博士人材のキャリアや企業での活躍可能性について理解を深めます。特徴的なのは、博士学生が自ら議論テーマを設定する点です。grubioは事前ヒアリングを通じて、意見交換会の準備に伴走します。
意見交換会は複数回行われる予定で、各回には企業1社と博士学生数名が参加します。事前に学生が設定したテーマをもとに、博士人材がどのようにキャリアの選択肢を広げられるのかを議論する内容です。対話の結果は、マイナビが運営する調査研究メディア「マイナビキャリアリサーチLab」でレポートとして発信され、企業、学生、教育機関などに共有される予定です。
富士通との初回会合で見えた双方の関心

初回の意見交換会には、富士通株式会社の採用担当者2名と研究員1名、博士課程に在籍する学生3名が参加しました。当日は、学生と企業が事前に設定したテーマをもとにディスカッションが行われました。
学生側からは、「インターンシップの実態と博士採用の評価軸」「入社後の研究テーマ」「入社後の働き方とライフデザイン」といったテーマが挙がりました。一方、企業側からは、「博士学生が企業の研究開発職を選ぶ際に不安なことや重視すること」「研究開発職以外の職種をキャリアの選択肢に入れるために必要な要素」などが示されました。博士学生にとっては、企業がどのような視点で人材を見ているのかを知る機会となり、企業にとっても学生の実感や価値観に触れる時間になったようです。
参加学生からは、企業が博士に求めることを聞けて参考になったという感想が寄せられました。富士通の担当者からも、参加者自身の経験をもとに語られたことへの前向きなコメントがあり、双方に新たな気づきが生まれる場になったことがうかがえます。詳細レポートは、7月頃に「マイナビキャリアリサーチLab」で公開予定です。
研究室の外へつながる接点づくり

grubioは、博士人材を中心とした若手研究者と社会の新たな接点を設計する東京科学大学認定ベンチャーです。産学連携施策や共創プロジェクト、インターンシップの企画・設計・実行、研究者コミュニティの運営などを通じて、研究者の可能性を研究室の外へ広げる環境づくりに取り組んでいます。
マイナビは、人材ビジネス領域を中心に、就職、転職、アルバイトなどの情報サービスや人材紹介サービスを展開しています。今回の連携では、博士人材と企業の対話を可視化し、キャリアに関する知見を広く共有する役割も担います。また、東京科学大学田町キャンパス土地活用事業 産学官連携コンソーシアム準備会は、産業・研究拠点の形成に向けた活動を進めており、約80の企業・大学・団体とともに勉強会や育成プログラムなどを行っています。
「出会い方」を整えることが選択肢を広げる
博士人材の活躍を考えるとき、専門性の高さだけでなく、その力をどの場面でどう生かせるのかを互いに理解する過程が大切になります。今回のプロジェクトは、学生が一方的に企業を知る場でも、企業が人材を探す場だけでもなく、双方が問いを持ち寄る点に意味がありそうです。研究で培った経験や思考を、企業や社会の中でどのように位置づけられるのか。少人数の対話を重ねることで、博士人材のキャリアが少しずつ具体的な選択肢として見えてくるのではないでしょうか。

