
動物園で動物たちに与えられる野菜や果物。その一部が食べ残されたり、調理の過程で余ったりすることは、来園者からはなかなか見えにくいものです。しかし、毎日発生する食物残さをどのように処理するかは、施設の運営だけでなく、地域の環境を考えるうえでも大切な課題です。捨てるしかなかったものを堆肥に変え、植物を育て、その収穫物から新しい商品を生み出せれば、廃棄物は地域を巡る資源へと姿を変えます。
こうした循環の仕組みづくりが、川崎市の夢見ヶ崎動物公園で始まりました。株式会社komhamは、川崎市と三菱化工機株式会社が進める「夢見ヶ崎プロジェクト」に、生ごみ処理機「スマートコンポスト®」が採用されたと発表しました。動物公園の食物残さから始まる、地域に根差した資源循環の取り組みです。
食べ残しから商品開発までをつなぐ地域の循環

「夢見ヶ崎プロジェクト」は、三菱化工機と川崎市が2026年6月15日に締結した「川崎市における循環型社会の実現に関する連携協定」に基づく取り組みです。企業・自治体・市民がそれぞれの資源や強みを持ち寄り、公共施設から生まれる未利用資源を地域内で循環させる仕組みの構築を目指しています。
夢見ヶ崎動物公園では、動物たちのエサとなる野菜や果物などから、日々食物残さが発生します。これまでは廃棄物として扱われてきたものを、スマートコンポストで堆肥化し、ホップやレモングラスなどの栽培に活用する計画です。
さらに、育てた農作物を地域の企業や団体と連携して商品化・販売し、収益の一部を動物公園の運営に還元します。「食物残さの処理」で終えるのではなく、堆肥化、農作物の栽培、商品開発、販売、施設への還元までを一つの流れにする点が特徴です。
微生物の力で支えるスピーディーな堆肥化

今回導入されたスマートコンポストには、komhamが独自に開発した微生物群「コムハム」が活用されています。コムハムは、複数の好熱性バシラス科細菌を中心に構成された微生物群です。
komhamは、生ごみを最短1日で最大98%まで分解する能力があり、通常は数週間から数か月を要する堆肥化を高速化できると説明しています。動物公園のように食物残さが毎日発生する施設では、処理を一時的な活動にせず、継続して運用できるかどうかが重要です。分解にかかる時間を短縮できることは、限られた場所で日々の処理を続けるうえでも役立ちます。
食べ残しを単に減らすのではなく、その先で農作物を育てる堆肥へと変えることで、廃棄物だったものに新たな役割が生まれます。目に見えない微生物の働きが、動物公園と地域を結ぶ循環の出発点を支えています。
電源や排水設備に頼らない独立型の仕組み

スマートコンポストは、AC電源や排水処理を必要とせず、ソーラー発電で自動駆動する独立型の生ごみ処理機です。内部ではコムハムが安定して生ごみを分解できる環境が整えられ、自動攪拌にも対応しています。
電源や排水設備の条件に左右されにくいため、既存施設へ導入する際の選択肢も広がります。街中や施設内に設置しても周囲の景観を損なわないよう、外観にも配慮して開発されました。多くの来園者が訪れる動物公園では、日常の施設運営や園内の雰囲気への影響を抑えながら使えることも大切です。
稼働状況はクラウド上で確認でき、投入した生ごみの量や分解量、分解率、温室効果ガスの排出削減量、バッテリー残量などのデータを取得できます。エラーが発生した際にはアラートが表示されるため、管理の手間を抑えながら継続的な運用につなげられる仕組みです。
公共施設から広がる「捨てない」地域づくり
このプロジェクトが目指しているのは、生ごみ処理設備を一台導入することだけではありません。地域で発生した有機資源を地域の事業者や施設へつなぎ、継続的に循環させられるかを確かめる取り組みでもあります。
動物公園という身近な公共施設を起点にすることで、資源循環を来園者が具体的に感じられる機会も生まれそうです。動物たちの食べ残しが堆肥になり、そこから植物が育ち、地域の商品へとつながっていく流れは、環境への取り組みを日常に近いものとして伝えてくれます。
komhamは今後、プロジェクトから得られる知見を生かし、動物公園や公共施設に加えて、食品工場、商業施設、宿泊施設などで発生する有機資源の循環にも取り組む方針です。廃棄物処理事業者や食品・農業関連事業者、施設運営者、自治体との連携を広げ、地域ごとの資源や課題に合った仕組みの社会実装を進めるとしています。
食べ残しの先に見えてくる地域との新しい関係
夢見ヶ崎プロジェクトで印象的なのは、食物残さを堆肥へ変えるだけでなく、農作物の栽培や商品開発、動物公園への収益還元までを一つの循環として描いていることです。処理設備だけで完結させず、地域の企業や団体が関わる余地を設けることで、これまで廃棄されていたものが人や施設を結ぶきっかけになります。ソーラー発電やクラウド管理に対応したスマートコンポストは、こうした循環を無理なく続けるための土台を担います。毎日の食べ残しが、やがて植物や商品となって地域へ戻る。その変化を動物公園という身近な場所で目にできることは、資源循環を特別な活動ではなく、暮らしにつながる営みとして考える機会にもなりそうです。今回の試みから得られる知見が、それぞれの地域に合った「捨てずに生かす仕組み」を考える小さな手がかりになることが期待されます。

