
海の中で揺れる草原のようなアマモ場は、魚やエビ、カニなどが身を隠し、卵を産み、成長する場所です。「海のゆりかご」と呼ばれる一方、その環境を次の世代へ残すには、海草を増やす作業だけでなく、地域で海を知り、手を動かす人を育てることも欠かせません。
広島県江田島市を拠点とする「えたじま未来の海づくり大作戦」は、2026年7月24日、広島県水産海洋技術センターでアマモの種子回収・精製・保存作業を行いました。一般社団法人フウドのメンバーをはじめ、大柿高校の生徒、NPO、地域おこし協力隊、地域企業など計13人が参加。約600本のアマモから860ml、推定6万2,780粒の種子を回収しました。今回の数字は、里海再生へ向かう長い工程の入口と、地域の担い手が学び合う姿を具体的に伝えています。
「海のゆりかご」を支えるアマモ場の役割
アマモは、浅い海底に根を張って育つ海草です。まとまって生えることでアマモ場をつくり、魚介類が身を隠す場所や産卵・成育の場になります。多様な生きものの暮らしを支えることから、「海のゆりかご」とも呼ばれています。
一般社団法人フウドは、海岸清掃、アマモ場の再生・調査研究、学びの場づくりを柱に、江田島の里海を未来へつなぐ活動を続けています。今回扱ったのは、5月に特別採捕した約600本のアマモです。水槽で追熟させ、種子が成熟した時期を見計らって回収作業へ移りました。
海辺の環境を守る活動では、現状を観察することと、再生に必要な材料を次の段階へつなぐことが連続しています。今回の作業も、海から採ったアマモをすぐに海へ戻すのではなく、成熟を待って種子を取り出す工程です。季節に合わせて状態を見極め、適切に保存する準備が、その後の発芽試験や育苗の土台になります。


ふるいと比重を使い、充実した種子を選別
枯れたアマモから種子だけを残すには、細かな選別が必要です。参加者は海水を流しながら何度もふるいにかけ、葉の断片や石、小さな生きものなどを取り除きました。さらに飽和食塩水を使い、比重の違いから軽く未熟な種子を除いていきます。
一つひとつは小さな種子ですが、混ざったものを見分けながら扱う工程には根気が求められます。参加者は手分けして作業し、回数を重ねるうちに種子だけを取り出せるようになったとのことです。里海の再生という大きな目標が、目の前の地道な手作業に支えられていることが見えてきます。


860mlから推定6万2,780粒、前年の約3.7倍
選別を終えた種子の総量は860mlでした。大柿高校の生徒は、メスシリンダーで量った1cc分の種子をトレイへ移し、実際に粒数を数えました。その結果は1ccあたり73粒。860mlに換算し、推定総数を6万2,780粒としています。
前年に回収した約1万6,700粒と比べると、今回は約3.7倍です。数字からは回収段階での大きな増加が分かります。ただし、6万2,780粒がすべて発芽し、海底へ定着するわけではありません。今回の成果は、あくまで種子を回収して次の工程へつないだ段階として捉える必要があります。


7本の保存瓶から発芽試験と育苗へ
回収した種子は7本の保存瓶に分け、インキュベーターで低温保存されました。今後は発芽試験、育苗ポットでの育成、アマモの種まきイベントなどへの活用が予定されています。種子の上に活性炭を入れて保存する様子からも、次の作業へ向けて状態を整える工程が続くことが分かります。
発芽試験の結果や育苗後の定着率は、今回の発表時点では示されていません。種子の回収数だけで藻場再生の達成を判断するのではなく、その後どれだけ発芽し、育ち、海の環境へ根づくのかを継続して見ていくことが大切です。


高校生・NPO・企業が同じ作業を担う学びの場
今回参加した13人には、大柿高校の生徒3人と校長先生も含まれています。生徒たちは最初こそ戸惑いながらも、種子の選別や計量を分担し、最後には推定粒数の根拠となる1ccあたりの粒数確認にも取り組みました。
環境教育というと、講義や観察会を思い浮かべることもあります。今回の活動では、地域団体や企業などと同じ作業を担い、再生活動に必要な工程と数字を自分の手で確かめています。海を守る行動を身近な仕事として理解する機会であり、学校と地域の連携が次世代の担い手づくりにつながる一例といえそうです。
参加者の顔ぶれが多様である点も特徴です。NPOや行政の技術施設、学校、地域企業がそれぞれの立場を越えて作業を共有することで、環境保全を特定の専門家だけに任せない関係が生まれます。地域の海を共通の学びの場にすることは、継続的な協働の入口にもなりそうです。
一粒を次の工程へつなぐ地域の積み重ね
約600本のアマモから推定6万2,780粒を回収した今回の活動は、数字の大きさだけでなく、その数字を生み出す過程が印象的です。種子を成熟させ、混ざったものをふるい分け、比重を使って選別し、量を測り、低温で保存する。さらに、高校生や地域団体、企業など立場の異なる人が、同じテーブルで細かな作業を分担しました。
藻場の再生は、種子を集めた時点で完了するものではありません。発芽試験や育苗、種まき、その後の定着確認まで、時間をかけた取り組みが続きます。だからこそ、今回の回収は未来の海への入口であると同時に、海に関わる人を地域に増やす一歩でもあります。一粒の種子を次の工程へ渡す地道な積み重ねが、江田島の里海を考える学びと協働の輪を少しずつ育てていきそうです。

