
障がい者雇用を考えるとき、これまでは就職の機会をつくり、安心して働き続けられる環境を整えることが大切にされてきました。もちろん、体調や特性に応じた配慮を受けながら長く働けることは、今も欠かせない土台です。一方、仕事に慣れ、経験を重ねた先では、「もっと得意なことを伸ばしたい」「新しい業務にも挑戦してみたい」「将来はどのような働き方をしたいのだろう」と考える人もいるでしょう。
雇用の拡大が進む今、採用や定着だけでなく、その人がどのように成長し、どのようなキャリアを築くのかにも目を向ける必要がありそうです。こうした中、マイナビグループの特例子会社である株式会社マイナビパートナーズは、障がいのある社員が自身の可能性を広げ、将来の姿を主体的に描くための「キャリア自律支援プログラム」を開始しました。
強みや価値観を見つめ直す新プログラム
マイナビパートナーズでは、キャリア自律を、自身のスキルや経験、価値観を振り返りながら、将来目指したい姿を主体的に考え、歩み続けることと定義しています。
同社には2026年6月時点で370名の社員が在籍し、そのうち277名、全社員の約75%が障害者手帳を保有しています。障がいのある社員が担当する仕事は、事務業務にとどまらず、クリエイティブやプログラミングなど幅広い分野へ広がっています。職域が多様になるにつれて、挑戦したい仕事や目指したい成長の形も、一人ひとり異なってきました。
プログラムでは、キャリアに関する研修に加え、自身の強みや価値観、これまでの経験、将来ありたい姿を整理するシートを活用します。まず自分自身への理解を深め、そのうえで将来像を言葉にしていく流れです。
さらに、考える機会を設けるだけでなく、社内の仕事や職種を可視化する情報発信、社内インターンシップ、社内公募、異動機会の拡充も進めています。描いたキャリアを実際の行動につなげられるよう、挑戦の受け皿まで整えようとしている点が特徴です。
当事者の希望と企業側の優先事項の違い
障がい者雇用は着実に増加し、2025年に民間企業で働く障がいのある人は70万人を超え、22年連続で過去最高を更新しました。その一方で、働く当事者が仕事に求めているものは、安定だけではありません。

障害者職業総合センターの調査研究では、一般企業で働く障がいのある人の84.3%が「同じ会社でできるだけ長く働き続けたい」と回答しています。「体調管理や私生活とのバランスを取りながら働きたい」も43.9%となり、安定した雇用や働きやすさを重視する姿勢が表れました。
同時に、「周囲の人や社会の役に立ちたい」は28.7%、「特定の業務の経験や能力を伸ばしたい」は25.5%、「幅広い業務の経験や能力を身に着けたい」は23.8%でした。無理なく働き続けることに加え、能力を高め、仕事を通じて貢献したいという希望も見えてきます。

一方、企業が精神障がいのある人の活躍に必要だと考える職場側の要素では、「合理的な配慮の提供」が60.1%で最も高く、「柔軟な勤務・業務の調整」が56.4%、「職場の支援する風土」が51.9%と続きました。安心して働き続けられる環境づくりが重視されていることが分かります。
これに対して、「多様なキャリアパスの用意」は35.5%にとどまりました。働きやすさを支える取り組みに比べ、職域の拡大や将来の役割を選べる仕組みづくりは、相対的に優先度が低い状況です。安定した雇用の先にある成長や挑戦の機会をどう整えるかが、今後の課題といえそうです。
法定雇用率の充足から職域の拡大へ

企業が障がい者雇用を進める際に重視していることについても、現在の課題がうかがえます。障害者職業総合センターの調査研究では、57.0%が「法定雇用率の充足」と回答しました。
これに対し、「障害者の戦力化」は13.0%、「障害者が社内のより中心的な業務(コア業務)に貢献できること」は6.3%、「障害者の新たな職域や新規事業の開拓」は5.3%でした。
2026年7月には法定雇用率が2.7%へ引き上げられ、企業にはこれまで以上に雇用機会を広げる対応が求められています。ただ、人数を確保することだけでなく、採用された人がどのような仕事で力を発揮し、経験を積めるのかも重要です。当事者が望む成長や挑戦と、企業側が用意する機会との間をつなぐ取り組みが、次の課題になっているといえそうです。
社長の試行錯誤から生まれた社員の気づき
プログラムの一環として、代表取締役 社長執行役員の藤本雄さんが全社員に向け、自身のキャリアの歩みを伝える機会も設けられました。障がい者雇用に携わり始めた当初の思いや、現在の会社・事業に対する考えを共有したものです。
なかでも、当初は障がい者雇用に関わることへ不安や戸惑いがあったという率直な経験談に、社員から多くの共感や驚きが寄せられました。順調な成功体験だけでなく、葛藤や試行錯誤を含めて伝えたことが、社員自身のキャリアを見つめ直すきっかけになったようです。
参加した社員からは、会社への理解が深まったという声のほか、苦手意識のあることにも挑戦したい、自分のキャリアや将来のありたい姿を言葉にしたいといった感想が寄せられました。他者の歩みを知ることが、自分の可能性を考えるための身近な入口になったことが伝わります。
安心して働ける環境と挑戦できる選択肢
障がい者雇用では、合理的配慮や柔軟な勤務体制など、安心して働き続けるための環境が欠かせません。その土台を守りながら、本人が希望する場合には、新しい業務や役割へ挑戦できる選択肢を用意することも大切です。今回のプログラムは、すべての社員に同じキャリアを求めるのではなく、強みや価値観を整理し、それぞれが自分なりの将来像を考えるところから始まります。研修だけで終わらず、社内インターンシップや公募、異動の機会につなげている点も印象的です。「長く働ける職場」から「長く働きながら、自分らしく成長できる職場」へ。障がいの有無にかかわらず、一人ひとりの希望に耳を傾け、挑戦の道筋をともに考える姿勢が、これからの職場づくりに求められそうです。

