
働く意味や将来のキャリアについて考えるとき、同じ職場の仲間との対話は大切です。一方で、日頃から似た仕事や価値観に囲まれていると、自分では気づかないうちに、ものの見方が狭くなってしまうこともあります。異なる組織で働く人と率直に話す機会は、自身の役割や仕事への向き合い方を見直すきっかけになるかもしれません。
若手の早期離職や、日々の業務に対する目的意識の薄れが課題となるなか、株式会社リアルソフトは静岡県川根本町と協働し、両組織の若手層を対象とした「合同キャリア研修」を実施しました。IT企業と自治体という文化や仕事の進め方が異なる組織の若手が集まり、対話を通して自らの役割やキャリアを考える取り組みです。
「飲み会」で生まれたIT企業と町役場の接点

神奈川県横浜市に本社を置くリアルソフトと、静岡県の川根本町。両者の協働は、同社社長と川根本町教育長が飲み会で意気投合したことから始まりました。
川根本町の教育長は、就任当初から「0歳から18歳までのシームレスな教育」の実現を掲げていました。その一方で、学校現場には小学校と中学校の文化の違いや、年度ごとに区切られる行政の仕組みなど、組織を横断した取り組みを進めにくい面もあったといいます。
教育長は、学校の中だけを見ていては新たな気づきが生まれにくいとの考えから、外部組織との交流に目を向けました。そのなかで関心を寄せたのが、リアルソフトが培ってきた人材育成の取り組みです。同社は「働きがい認定企業」や「ホワイト企業認定」に選出され、第11回ホワイト企業アワードでは人材育成部門を受賞しています。
教職員研修から若手の合同キャリア研修へ

協働の第一歩として、リアルソフトでは川根本町の教職員を対象とした研修を開催しました。その後、取り組みは「合同新人研修」へと発展。今回はさらに対象を広げ、これから組織を担う入社・入庁3年目までの若手を中心とした異業種合同キャリア研修が行われました。
IT企業と町役場では、提供するサービスや業務の進め方、仕事に求められるスピード感などが異なります。そこで研修では、リアルソフトの若手社員と川根本町の職員が対等な立場で話し合い、互いの考え方に触れられる場が設けられました。
自社や同じ業界の枠を越えた対話によって、参加者がより広い社会的な視点を得ること、自身の業務上の役割と個人的な意志とのつながりを言葉にすることも目的とされています。官民が一緒に人材育成へ取り組むという点でも、新たな連携の形が見えてきます。
「Will・Can・Must」で見つめ直す現在地

研修で用いられたのは、キャリアを「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」「Must(すべきこと)」の3つの要素で整理するフレームワークです。
参加者は説明を聞くだけでなく、IT企業の社員と町職員が混ざる少人数のグループに分かれ、それぞれのWill・Can・Mustについて話し合いました。職種や所属が異なるからこそ、普段の人間関係を気にしすぎず、本音を話しやすくなる場面もあったようです。
他の参加者の考えを聞くことは、自身の価値観を相対的に捉える機会にもなります。自分にとって当たり前だった仕事の進め方や役割が、別の組織で働く人にはどのように映るのか。視点の違いを否定するのではなく、楽しみながら現在地と今後の課題を掘り下げる、実践的なワークショップとなりました。
本音の対話から生まれた仕事への新しい視点

参加した若手社員からは、WillとMustの関係を深く考えたことで、Mustを「次のステップへ挑戦するための指針」として捉えられるようになったとの声が寄せられました。現在の立ち位置や、今後取り組むべき課題を具体的に整理する機会にもなったといいます。
また、別の職種や部署の人との交流だったため、身近な誰かを意識せず、気軽に本音を話せたという感想もありました。他の参加者のWill・Can・Mustに触れることで、自分にはなかった考え方を知り、視野が広がった様子がうかがえます。
研修で見つけた新しいWillを普段の業務でも意識するようになり、仕事へのモチベーションにつながっているとの声も紹介されています。一度きりの学びにとどまらず、日常の行動や仕事の捉え方に変化が生まれた点が印象的です。
官民が「教える側」と「学ぶ側」を越える人材育成
リアルソフトは今後、同様の課題を抱える企業や全国の自治体との合同研修、官民連携による人材育成プログラムの実施を模索するとしています。行政と民間企業の協働というと、地域課題の解決やシステム導入などを思い浮かべがちですが、人を育てる場を一緒につくることも、双方の関係を深める一つの方法になりそうです。
今回の取り組みで興味深いのは、どちらかが一方的に知識を提供するのではなく、異なる文化を持つ若手同士が対話し、互いの考えから学んでいる点です。同じ組織の中だけでは見えにくい仕事の意味や自分の強みに、外からの視点が光を当てています。キャリアについて考えることは、転職や昇進といった大きな選択だけを意味するものではありません。現在の仕事をどう受け止め、次の行動へどう結びつけるかを整理することも、その一部です。組織の枠を越えて安心して本音を交わせる機会が、若手の主体性を育てる小さな一歩になるのかもしれません。

