小中学生が「渋沢MIX」で会社設立に挑戦、融資面談まで学ぶ一日

子どもが将来の選択肢を広げるうえで、知識を学ぶだけでなく、自分で問いを立て、周囲と協力しながら形にする経験も大切になっています。とはいえ、起業や資金調達と聞くと、難しい専門知識が必要な大人の世界という印象を持つ人も多いかもしれません。

身近な地域の課題を調べ、商品を考え、必要なお金を計算して、自分たちの言葉で発表する。こうした一連の過程を体験すれば、起業は単に会社をつくることではなく、誰かの困りごとに気づき、解決方法を考える営みであることが見えてきます。

自律学習指導塾「SAIL」などを運営する株式会社SAILは、2026年7月18日、さいたま新都心の「渋沢MIX」で、小中学生向けのアントレプレナーシップ教育イベント「ジュニア起業チャレンジ」を開催しました。小学4年生から中学3年生までの参加者が、会社設立から市場調査、商品企画、融資面談、事業計画のプレゼンテーションまでを一日で体験しました。

渋沢栄一ゆかりの地から始まる会社づくり

埼玉大学の教員、埼玉縣信用金庫の職員が審査、融資面談に対応

今回のイベントは、埼玉県内におけるアントレプレナーシップ教育の推進を目的として企画されました。SAILが主催し、埼玉大学と、内陸5県の国立大学を中心とする広域プラットフォーム「IJIE-Nexus」が共催。埼玉縣信用金庫も協力し、地域の教育機関や金融機関が連携する形で行われました。

会場となった「渋沢MIX」は、さいたま新都心駅に近い「ekismさいたま新都心」の5階に設けられたイノベーション創出拠点です。約500の企業の設立や育成に関わったとされる埼玉県出身の実業家、渋沢栄一の精神を受け継ぎ、人々の出会いや共創を促す場所として運営されています。

子どもたちが起業について考え、自ら会社づくりに取り組む会場として、開催テーマともよく重なる場所です。プログラムは、アントレプレナーシップ教育に25年以上携わってきた株式会社セルフウイングが監修し、「SelfWing Method」に準拠して実施されました。

学年を越えたチームで挑む埼玉県の三つの課題

参加者は学年混合のチームを組み、一つの「会社」を設立しました。事業づくりのテーマとして示されたのは、埼玉県が抱える「観光」「健康」「空き家」の三つです。各チームはその中から一つを選び、課題の調査からスタートしました。

埼玉県の課題について調査

市場調査では、インターネットで情報を集めるだけでなく、会場にいる大人たちへのインタビューにも挑戦しています。初対面の相手へ声をかけ、自分たちが知りたいことを質問する作業は、画面上の情報だけでは得られない一次情報に触れる機会になりました。

インタビューで一次情報をとってくる

集めた情報をもとに、課題が生まれる背景や商品が提供する価値を整理し、「誰がお金を払うのか」という点まで考えました。アイデアを出すだけで終わらず、イラストやモデルを使って具体的な商品・サービスの形へ落とし込んでいったことも特徴です。年齢の異なる仲間との話し合いを通じて、それぞれの視点を一つの計画にまとめる力も求められました。

信用金庫との面談で問われた事業の実現可能性

企画を考えた後に待っていたのは、埼玉縣信用金庫の担当者を相手にした融資面談です。子どもたちは、自分たちの事業がどのような課題を解決し、どれほどの資金を必要とするのかを説明しました。

埼玉縣信用金庫へ融資面談

担当者からは、課題の設定や事業の実現可能性について具体的な質問が寄せられました。一度の説明で融資が認められるとは限らず、計画を差し戻されながら内容を修正したチームもあったそうです。必要資金は自分たちで調べ、事業計画書に記載した細かな数字まで確認を受けました。

金融の専門家から率直な意見を受けることで、「面白そう」という発想を、実行できる事業へ近づけていく過程を体験できます。埼玉縣信用金庫の大宮支店長や地域創生部の職員に加え、埼玉大学の教職員・学生、現役の学校教員などもメンターとして子どもたちを支えました。

三つの視点が映し出したビジネスアイデアの魅力

プログラムの最後には、各チームが3〜5分間のプレゼンテーションを行いました。保護者や関係者が見守るなか、小学生と中学生が自分たちで練り上げた事業計画を発表しています。

ビジネスアイデアのプレゼンテーション

審査では、異なる視点を持つ三つの賞が用意されました。「埼玉縣信用金庫賞」は、収支計画の確かさや実現可能性など、ビジネスとしての価値を金融の専門家が評価する賞です。

埼玉縣信用金庫賞を田中支店長から授与

「埼玉大学賞」では、地域課題への着眼点とアイデアの独自性が評価されました。

埼玉大学賞を松岡教授から授与

さらに、参加者や保護者の投票で決まる「オーディエンス賞」も設けられています。計画性、独自性、聞き手の共感という複数の観点からアイデアを見ることで、事業の魅力は一つの尺度だけでは測れないことも伝わる構成です。受賞チームには賞品が贈られ、会場から大きな拍手が送られました。

オーディエンス賞は会場の投票で選ばれた

SAILの代表取締役・石井龍生さんは、子どもたちに伝えたかったものとして、自分の力で人生を踏み出していくアントレプレナーシップを挙げています。短い時間のなかでも自己効力感を高め、次の挑戦へ向かうきっかけを手渡すことを重視したとコメントしました。

株式会社SAIL 代表 石井龍生

一日の起業体験を次の一歩につなげる地域連携

今回印象的なのは、子ども向けに内容を簡略化するだけでなく、大人への聞き取りや金融機関との面談など、実社会に近い場面が組み込まれていた点です。計画を差し戻され、考え直して再び伝える経験には、正解を覚える授業とは異なる学びがあります。また、大学、金融機関、企業、教員、保護者がそれぞれの立場から関わったことで、「地域みんなで子どもを育てる」という考え方も具体的な形になりました。SAILは今後、実際の商品づくりや販売まで経験する実践型起業ラボ「LIGHTHOUSE」も通じ、挑戦を一度きりで終わらせない場を広げる方針です。起業するかどうかにかかわらず、自ら課題を見つけ、周囲の力を借りながら一歩を踏み出す経験は、子どもたちがこれから進路や生き方を選ぶ際の小さな支えになりそうです。

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