AI時代は「まず手書き」が鍵?Goodnotes調査で独創的アイデアにたどり着く人の割合が約2.4倍

生成AIを使えば、情報収集や文章作成、アイデア出しまで、さまざまな作業を短時間で進められるようになりました。その一方で、「AIの答えを読んでも自分の考えがまとまらない」「便利だけれど、どこか一般的な案になってしまう」と感じることもあります。すぐに答えを得られる時代だからこそ、自分で考え始めるための方法が、あらためて問われているのかもしれません。

デジタルノートアプリ「Goodnotes」を展開するGoodnotes Limitedは、2026年10月27日、東京・代官山でメディア向けイベント「AI時代、いい仕事は手から生まれる。— Where thinking by hand meets AI —」を開催しました。会場では、日本市場の事業概況や調査結果が紹介されたほか、竹下隆一郎氏、清水久三子氏、佐々木俊尚氏が、AIと手書きを仕事でどう使い分けるかを語り合いました。

日本の法人向け売上が世界1位、前年比2倍超へ

イベント冒頭では、Goodnotes LimitedのCOOを務めるミン・トラン氏が、日本市場における事業の状況を紹介しました。

Goodnotesは世界2,600万人以上が利用するデジタルノートアプリです。創業初期から支持を集めてきた日本では、近年、企業での利用も広がっています。日本の法人向け売上は国別で世界1位となり、前年比で2倍を超える規模に伸びました。

特に建築・エンジニアリング・建設分野の利用割合は、世界平均を大きく上回っています。導入企業の一例として、生産性が40%向上したケースも紹介されました。また、2027年3月頃には、Android向けネイティブアプリの提供開始を予定しています。

Goodnotesの日本市場における事業概況を発表するミン・トランCOO
ミン・トラン氏(Goodnotes Limited COO)

「まず手書き、次にAI」で変わるアイデアの生まれ方

続いて、全国のビジネスパーソン1,000人を対象に行われた「AI時代の思考力/創造力実態調査」の結果が発表されました。

仕事で生成AIを利用している人の51.0%、20代では60.9%が「AIに聞かないと、自分では考え始められなくなった」と感じていました。一方、独創的なアイデアが生まれた場面で使っていた手段は、手書きが48.6%となり、生成AIの39.0%を上回りました。

さらに、「まず手書き、次にAI」の順で考える人が、独創的なアイデアへ「よくたどり着く」と回答した割合は、反対の順番で考える人の約2.4倍でした。

ミン・トラン氏は、東京大学の酒井邦嘉教授が寄せたコメントから「ペンはキーボードより強し」という言葉を紹介しました。そのうえで、AIと手書きを対立するものとして捉えるのではなく、「まず手で考え、次にAIで広げる」という組み合わせ方を提示。AIは人間の思考を代わりに行うものではなく、自分で考えたものの上に積み重ねていくものだと説明しました。

三者三様の仕事に見る、手書きとの付き合い方

続くパネルディスカッションでは、「AIと手書き、私たちはどう使い分けているか」をテーマに、登壇者3人がそれぞれの仕事での活用方法を紹介しました。

AIと手書きの使い分けについて語り合う竹下隆一郎氏、清水久三子氏、佐々木俊尚氏

「TBS CROSS DIG with Bloomberg」CCOの竹下隆一郎氏は、YouTube番組のインタビュー準備で手書きを使っています。パソコンで作った台本をGoodnotesへ取り込み、手書きで書き込んだ後、再びテキスト化する流れです。

竹下氏は、データなどの正確さが求められる情報を「四角い言葉」、相手の感情がにじむ表現を「丸い言葉」と捉えています。スクリーンショットで正確な情報を残しながら、深掘りしたい部分には手書きでメモを加えるなど、デジタルと手書きを往復することを大切にしているといいます。

インタビュー準備での手書き活用について話す竹下隆一郎氏
竹下 隆一郎 氏(TBSテレビ 特任執行役員/TBS CROSS DIG with Bloomberg CCO)

経営・人材育成コンサルタントの清水久三子氏は、スライドを作成する前に、まず手書きで全体のイメージを描いています。いきなりPowerPointで作る場合と比べ、手書きで考えを固めてから制作すると、作業時間が半分ほどになると説明しました。

考える作業と表現する作業を同時に進めると、生産性が下がりやすくなります。生成AIを使う場合も、前段階の考えが曖昧なままでは、出力に違和感を覚えて修正を繰り返すことになりかねません。自分の思考を手書きで形にしてから、表現を新しいテクノロジーへ任せる使い分けが紹介されました。

資料作成前に手書きで考えを整理する方法を紹介する清水久三子氏
清水 久三子 氏(株式会社AND CREATE 代表取締役社長)

文筆家・情報キュレーターの佐々木俊尚氏は、原稿のPDFをGoodnotesへ取り込んで校正するほか、書籍の構成を考える際にも手書きを活用しています。

メモアプリでは情報が一覧として並びやすい一方、白紙の上に情報を置き、矢印でつないでいくと、概念と現場の出来事の関係が見えやすくなります。頭の中にある曖昧なものを形にするには、手を動かすような身体性が必要だと語りました。

書籍の構成や原稿校正での手書き活用について語る佐々木俊尚氏
佐々木 俊尚 氏(文筆家・情報キュレーター)

「分かったつもり」に気づく、手書きの速度

話題は、アイデアが生まれる瞬間に、頭の中で何が起きているのかへ移りました。

清水氏は、まず「納得」と「理解」は異なると説明しました。提示されたものを「なるほど」と受け取るのが受動的な納得であるのに対し、要素を分解し、その関係性を自分の中へ落とし込むことが能動的な理解だといいます。

手書きでは、考えがまとまらないと自然に手が止まります。その瞬間に、自分が理解できていない部分へ気づけることも特徴です。テキストを眺めているだけでは流してしまいがちな曖昧さを、手を動かす速度が立ち止まらせてくれます。思いつきは音声入力で素早く残し、しっかり考えたい場面では手書きを選ぶという使い分けも紹介されました。

「納得」と「理解」の違いや、アイデアが生まれる過程について語る清水久三子氏と佐々木俊尚氏

佐々木氏は、AIが過去の膨大な学習データから知識を取り出すため、その思考は「リニア」、つまり直線的で、出力が平均値や中央値へ近づく傾向があると指摘しました。

その例として挙げたのが、当時は十分に評価されていなかったゴッホの絵です。仮に19世紀末に生成AIが存在していても、過去の評価や既存の知識をもとにするAIから、ゴッホのような表現は生まれにくかったのではないかと語りました。

佐々木氏は、すでにある知識同士を掛け合わせ、新しい発想を生み出す「触媒」となることが、人間の役割だと説明しました。そのためには、その人自身の経験や身体的な感覚、ものの見方が重要になると説明しました。

効率化だけではない、AIを「議論する相手」に

続いて、人は仕事でAIとどのように向き合うべきかが議論されました。

佐々木氏は、AIを導入しても生産性が上がらない背景として、活用方法が議事録の要約や資料作成など、事務処理の効率化にとどまりやすいことを挙げました。AIの価値は、人間が気づかなかった傾向を見つけ、仕事の進め方そのものを変えることにあり、「議論する相手」として使うことが大切だといいます。

仕事におけるAIの役割について意見を交わすパネルディスカッションの登壇者

清水氏は、AIを自分の思考の「拡張脳」として使う方法を提案しました。「違う視点から見たらどう思うか」と問いかけ、思考の抜けを補ってもらう使い方です。ただし、自分の考えを渡さなければ、AIからは一般的な答えしか返ってこない可能性があります。

清水氏は、企業のビジョンや求める人材像を考える場面を例に、最初はAIで選択肢を広げ、途中で参加者が手書きをしながら納得感をつくり、最後は人間が判断する流れを紹介しました。

佐々木氏は、AI時代の人間に残るものとして、生身の人間としての信頼性と身体性を挙げました。料理における手、登山における足と同じように、手書きも身体へ直接つながる「手仕事」です。手で書くことが、AIの到達しにくい直線的ではない思考につながる可能性を示しました。

「書く」と「話す」を支えるGood Systems構想

イベント後半では、Goodnotesを含む複数のプロダクトを展開する新ブランド「Good Systems」の構想が紹介されました。創業者兼CEOのスティーブン・チャン氏によるビデオメッセージも上映されています。

Good Systemsの構想を紹介するGoodnotes創業者兼CEOのスティーブン・チャン氏
スティーブン・チャン氏(Goodnotes Limited Founder&CEO)

新たなプロダクトとして紹介されたのが、AI議事録ツール「Goodmeet」です。会話内容のプライバシー保護に配慮した設計を特徴とし、「書くこと」を支えるGoodnotesと、「話すこと」を支えるGoodmeetという、それぞれの役割が示されました。スティーブン・チャン氏は「グッドな思考をグッドな成果へ。」というミッションも紹介しました。

発表時点で、Goodmeetのベータ版は、Appleシリコン搭載Mac、メモリ16GBを搭載したWindows 11、iOS 17以降のiPhoneで無料で試すことができます。日本語版は現在テスト中で、提供開始時期は今後発表される予定です。

さらに、日本市場での今後の取り組みとして、シングルサインオンや請求書払いなど、法人向け機能の開発が挙げられました。「Goodnotes Education」の無償提供を通じてGIGAスクール構想を支援する方針も掲げています。また、2026年12月に開催される「JAPAN BUILD TOKYO」へ、3年連続で出展することも発表されました。

最後にミン・トラン氏は、AIがあらゆる問いに答えられる時代だからこそ、自分自身の考えに価値があると強調しました。

AI時代における自分自身の考えの価値について語るミン・トランCOO

Goodnotesは、手書きから始まる思考をAIの力でよい仕事へつなげる場であり続け、日本のユーザーとともに製品を進化させていく考えを示しました。

AIに答えを求める前に、自分の考えを置く時間

今回のイベントから見えてきたのは、手書きとAIのどちらが優れているかという単純な比較ではありません。竹下氏が語ったデジタルと手書きの往復、清水氏が示した納得から理解へ進む過程、佐々木氏が重視する身体性は、いずれも自分の考えを持ってからテクノロジーを使うことの大切さにつながっています。

手書きには、すぐに答えが出ないからこそ立ち止まり、曖昧な部分へ気づける特徴があります。そこへAIによる整理や異なる視点を加えれば、効率化だけにとどまらない活用が見えてきます。まず自分の言葉や図を一つ置き、その後でAIと対話する。そんな順番が、その人ならではの発想や、納得できる仕事を生み出すきっかけになるのかもしれません。

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