街に点在する小さな植物工場を「苗」でつなぐ OYASAIの実証事業が農水省事業に採択
OYASAI FARM

気候変動による生育環境の変化や農業従事者の減少を背景に、天候の影響を受けにくい植物工場への関心が高まっています。ただ、大規模な施設の建設には相応の設備投資が必要です。より身近な場所で農作物を育てるには、施設を大きくする方法とは異なる発想も求められます。

一方、小型の植物工場を街のさまざまな場所へ設置する場合、各拠点で安定した生産を続ける仕組みが欠かせません。とりわけ栽培の出発点となる「苗」の品質と供給は、その後の生育や収穫を左右します。こうした課題に向き合う取り組みとして、OYASAI株式会社は、農林水産省の令和7年度補正予算「フードテックビジネス実証・実装事業」に採択されたことを発表しました。

11件の採択事業に選ばれた分散型農業の実証

採択されたのは、OYASAIが提案した「安定苗供給による分散型植物工場バリューチェーン構築実証事業」です。2026年7月10日に公表された全11件の採択事業の一つに選ばれました。

実証では、植物工場の生産性と安定性を支える苗に着目します。高品質な苗を継続的に生産・供給する仕組みを整え、街中に点在する小型植物工場を一つの農業生産ネットワークとしてつなぐ計画です。

植物工場というと、大きな建物に栽培設備が並ぶ風景を思い浮かべる人も多いかもしれません。OYASAIが描くのは、一つの施設を巨大化するのではなく、小さな生産拠点を街の中へ分散させる形です。

「小さく分散し、つなぐ」植物工場の新しい形

OYASAIは「世界最小の畑を、街にインストールする。」という考えのもと、これまで農業との接点が少なかった都市の空間を生産拠点へ変える取り組みを進めています。

同社が展開する水耕栽培ユニット「OYASAI FARM」は、オフィスや飲食店、商業施設、福祉施設などへの設置を想定しています。一つひとつは小さくても、共通の仕組みで連携させれば、街そのものを一つの農場のように機能させられる可能性があります。

大規模な農地や専用施設を新しく整備するのではなく、日常の中にある空きスペースを活用する点が特徴です。レストランの店内で野菜を育てたり、オフィスの一角を小さな農場として使ったりするなど、農業をより身近な場所へ持ち込むことができます。

生産拠点を小型化すれば、植物工場を導入する際のハードルを抑えやすくなります。その一方で、拠点が増えるほど、それぞれの設備や栽培状況を安定して管理する難しさも生まれます。分散しているからこそ、共通して利用できる基盤が重要になります。

生育と収穫を左右する「苗」の安定供給

植物工場では、LEDによる光の照射や温度、養液などの栽培環境を一定の範囲に調整できます。しかし、生産の起点となる苗の状態が安定していなければ、その後の生育や収穫量、生産計画にも影響が及びます。

小型植物工場が街の各所へ広がったとき、それぞれの拠点が種から苗を育てる育苗工程を個別に担うのは簡単ではありません。専用設備だけでなく、人材や管理の手間も必要となり、運営する側の負担が大きくなるためです。

分散型植物工場のボトルネックとなる苗について

そこで今回の実証では、高品質な苗を安定して生産し、各地の栽培拠点へ届けたうえで、それぞれの場所で安定的に育てる流れを構築します。さらに、生産や運用に関するデータも蓄積し、拠点をまたいだ仕組みづくりに生かします。

苗の供給を共通インフラとして整えることができれば、各拠点は育苗工程の負担を抑えながら栽培に取り組めます。点在する植物工場を単独の設備としてではなく、連携した生産ネットワークとして運用するための土台になりそうです。

生産から運用までをつなぐ五つの検証項目

実証には、OYASAI FARMの開発や導入を通じて蓄積してきた栽培・運用ノウハウが活用されます。主な検証項目は、高品質な苗を安定的に生産・供給する仕組み、分散した植物工場への苗供給モデル、栽培拠点間における生産・運用フローの標準化です。

加えて、複数の植物工場を一つのバリューチェーンとして成立させる事業モデルや、将来的な多拠点展開と社会実装を見据えたモデルの構築も進めます。単に苗を配送するだけではなく、生産から供給、各拠点での栽培、データの収集までを一続きの流れとして検証する取り組みです。

農林水産省の「フードテックビジネス実証・実装事業」は、研究開発や設備導入だけにとどまらず、フードテックを活用した技術を実際のビジネスとして検証し、社会へ実装することを目的としています。

今回の採択事業には、アップサイクルやAI、農産物流通、代替タンパク、循環型農業資材、食品輸出など、幅広い分野の提案が並びました。OYASAIは、その中で「分散型植物工場と苗供給」を組み合わせたテーマに取り組みます。

発信から実証へ進む都市型フードテック

國村隼太代表取締役は、拠点が増えるほど安定生産を支える共通基盤が必要になり、その重要な要素の一つが苗であると説明しています。今回の実証を通して、苗の生産から各地での栽培までを一つの仕組みとしてつなぎ、小型植物工場が街中へ広がる農業モデルを構築したいとしています。

OYASAI株式会社 代表取締役 國村 隼太氏

OYASAIはこれまでにも、農林水産省が主催する「FOODTECH Meetup 2026」への登壇や、フードテック官民協議会での事業発表・展示を通じて、分散型植物工場の社会実装について発信してきました。

農林水産省主催「FOODTECH Meetup 2026」に登壇するOYASAI代表國村 隼太氏

今後は、実証から得られたデータや知見を事業へ反映するとともに、進捗や成果も順次公表する予定です。

小さな生産拠点を地域の食へつなぐ共通基盤

オフィスや飲食店、福祉施設といった身近な場所に小さな植物工場が置かれる風景は、農業と都市生活の距離を縮めてくれます。ただ、設備を各地へ設置するだけでは、安定した農業生産の仕組みにはなりません。苗の品質、供給の流れ、栽培方法、運用データといった共通基盤がそろってこそ、分散した拠点を一つのネットワークとして捉えられます。今回の実証で印象的なのは、目立ちやすい収穫の場面ではなく、その手前にある苗へ焦点を当てたことです。小さな畑を増やしながら、それぞれを無理なくつなぐ仕組みが整えば、植物工場は単独の設備から、地域の食料生産を支える身近なインフラへ近づきます。実証によって、どのような供給・運用モデルが形になるのか注目されます。

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