「何かおもろいことないか」を未来へ、新東通信が全社対話で経営理念を再構築

企業が長く歩み続けるなかでは、創業時から受け継いできた価値観と、時代に合わせて変えていくべき考え方の両方が大切になります。しかし、長年大切にしてきた理念ほど、日々の仕事のなかでどのように実践するのかを言葉にするのは難しいものです。経営層にはなじみ深い言葉でも、若手社員にとっては距離のあるものに感じられることもあるでしょう。

企業理念を額縁の中の言葉にとどめず、一人ひとりが判断や行動に生かせる共通言語へと育てるには、世代や役職を越えた対話が欠かせません。広告会社の株式会社新東通信は、55期を迎えた節目に「理念体系化プロジェクト」を本格的に始動しました。創業以来の行動原理を起点として、これからの経営哲学を社員とともに組み立てていく取り組みです。

55年の歩みを未来へつなぐ理念体系化プロジェクト

今回のプロジェクトでは、創業以来受け継がれてきた企業理念を軸に、新東通信の経営哲学を4つの層に整理します。体系化するのは、存在意義を表す「パーパス」、果たすべき役割となる「ミッション」、目指す将来像を示す「ビジョン」、組織らしい価値観や行動基準となる「バリュー」です。

単に新しい言葉をつくるのではなく、これまで大切にしてきた考え方を見つめ直し、現代の事業や働き方に合う形へ進化させることが目的です。過去の歩みと未来の方向性を一つの体系で結び直す試みといえます。

「何かおもろいことないか」から始まる存在意義

プロジェクトの出発点となるのは、創業者の谷喜久郎さんが50年以上にわたり問い続けてきた「何かおもろいことないか」という言葉です。

この問いには、目の前の常識だけにとらわれず、未知の可能性を探し続けようとする姿勢が込められています。新東通信はこの言葉を企業のパーパスとして中心に据え、そこから現在のミッション、ビジョン、バリューを導き出していく方針です。

短く親しみやすい言葉でありながら、社員に考えるきっかけを与え、それぞれの発想や行動を促す問いにもなっています。完成された答えを示す言葉ではないからこそ、時代や仕事の変化に応じて意味を問い直せる点も特徴です。

目の前を明るく照らす「面白い」の捉え直し

プロジェクトでは、日常的に使われる「面白い」という言葉そのものも、語源から見つめ直しています。

「面白い」の語源の一つには、日本神話のなかで、闇に包まれていた世界に再び光が差し、人々の顔がはっきり見えるようになった状態を喜んだことに由来するという説があります。「面」は目の前、「白し」は明るいことを意味し、目の前が明るく照らされた状態を表す言葉として捉えられています。

こうした解釈を踏まえ、新東通信は、クライアントや社会をはじめ、関わる人の目の前を明るく照らすことを自らの使命として位置づけます。「面白さ」を単なる楽しさだけではなく、課題を前向きに捉え直し、新たな景色を生み出す力として扱っている点が印象的です。

変わらない軸と変わり続ける解釈の両立

55年間にわたる歩みを整理するうえで、もう一つ大切にされているのが「不易流行」という考え方です。時代が変わっても受け継ぐべき本質と、時代に応じて変化させるものを両立させます。

新東通信は、創業以来掲げてきた「社会的自己実現を図る面白集団である」という企業理念を、変わらない軸として維持します。一方で、その理念が現在の社会で何を意味し、仕事を通じてどのように形にするのかについては、継続的に問い直していきます。

理念を固定された決まりとして扱うのではなく、解釈を深めながら次の時代へつなぐ姿勢です。長く続いてきた企業だからこそ、守ることと変えることの双方を明確にしようとしています。

経営層だけで決めない全階層との対話

理念体系の策定には、幹部層だけでなく、マネージャーや現場社員も参加します。さらに、30歳以下の若手社員で構成される「未来プロジェクト」のメンバーとも対話を重ねます。

経営トップから社員へ完成した理念を伝えるのではなく、異なる立場や世代の意見を取り入れながら育てるプロセスです。誰もが理念を「自分ごと」として語れる状態を目指し、55期を通じて体系化を完成させる予定です。

完成後は、採用や人材育成、評価、事業開発のほか、日常業務における判断の基盤として活用されます。「面白さで事業課題を解決する集団」という自己定義を、組織全体の共通言語として定着させていく考えです。

理念を語り直す時間が組織の共通言語を育てる

企業理念は、短く整った言葉を掲げただけでは、日々の仕事に根づきにくいものです。どのような経験から生まれ、今の仕事とどう結びつくのかを社員同士で考える時間があってこそ、判断や行動を支える言葉になっていきます。新東通信の取り組みで印象に残るのは、創業者の言葉をそのまま守るだけでなく、その意味を若手社員や現場社員とともに捉え直そうとしている点です。「何かおもろいことないか」という素朴な問いは、決まった答えを求めるのではなく、新しい可能性へ目を向けるきっかけになります。55年の歴史から受け継ぐ軸と、これから加わる多様な視点がどのような経営哲学へまとまるのか、今後の展開が気になるところです。

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