
本を買う予定がなくても、ふらりと立ち寄って棚を眺める。気になる一冊を手に取り、静かにページをめくる。書店には、本を販売する場所にとどまらず、人が思いがけない知識や文化に触れられる魅力があります。
一方、全国では書店の減少が続いています。地域に本屋がある風景や、本を通じて新しい世界に出会う機会を、どのように残していくかが問われています。
京都を中心に書店を展開する株式会社大垣書店は、2026年12月4日、京都市中京区のウィングス京都1階に新業態「BOOKHOME(ブックホーム)」を開業します。書店に学びや飲食、イベントなどを組み合わせ、本を中心に人と地域がつながる複合型文化施設です。
1万店を下回った書店と、地域に残したい文化の接点
全国の書店数は、2026年3月末時点で9,993店となりました。書店数の統計が始まって以来、初めて1万店を下回ったとされています。最も書店が多かった1998年度の24,237店と比べると、約6割の減少です。
2025年度に開業した書店が102店だったのに対し、閉店した書店は499店にのぼりました。新刊書店が一つもない「無書店自治体」も、2026年3月時点で510市区町村となり、全国の約3割を占めています。
こうした状況を受け、経済産業省は2024年3月に「書店振興プロジェクトチーム」を設置しました。2025年6月には「書店活性化プラン」を公表し、街の書店を創造性が育まれる文化創造基盤と位置づけています。
大垣書店は、本を販売することに加え、書店という場所が持つ価値に目を向けてきました。一つの棚から伝わる文脈や、気軽に立ち寄れる居場所、街の記憶が積み重なる時間を、サービスや体験として届ける方法を模索してきたとしています。
「BOOK・HOME・COMMUNITY」を軸にした新しい書店
「BOOKHOME」という名称には、本のある場所が、訪れる人にとっていつでも帰ってこられる「もうひとつの家」であってほしいという思いが込められています。
施設が掲げる軸は、本と出会う「BOOK」、家のように気ままに過ごせる「HOME」、地域のつながりを育む「COMMUNITY」の3つです。本屋と日々の暮らしを近づけ、本や人、新しい好奇心と出会える場所を目指します。
店内には、新しい一冊との出会いが待つ書店エリアと、家のリビングのように思い思いの時間を過ごせるエリアなどが設けられる予定です。
本を選ぶ人、ページをめくる人、ひとりで考えごとをする人、誰かと語らう人。子どもから大人まで、それぞれの時間が同じ場所に重なることで、日常の中に新しい出会いが生まれる施設を描いています。

新刊と古書を一つの場所でつなぐ「本の循環」
BOOKHOMEでは、新刊だけでなく古書も取り扱います。古書の展開では、長野県上田市を拠点に古本の買取や販売を行う株式会社バリューブックスと連携します。
バリューブックスは、オンラインでの古本買取・販売だけでなく、既存書店への古本卸しや、実際の「本のある空間」をつくる取り組みも展開しています。
BOOKHOMEでは、同社が開発した書店システムを使用する予定です。新刊を含む書籍の仕入れや販売、古本の買取までを一元的に管理できる仕組みが導入されます。
新刊と古書を別々のものとして捉えず、いずれも読者が「次に出会う一冊」として扱うことが、この取り組みの特徴です。新しく刊行された本と、誰かが読み終えた本が一つの場所に並ぶことで、本が人から人へ巡る循環を生み出します。
本や学び、食を支える7つのパートナー
BOOKHOMEには、本や学び、食、人のつながりを生み出すため、さまざまな分野のパートナーが参加します。それぞれが持つサービスや知見を組み合わせ、従来の書店にとどまらない施設を構成します。

バリューブックス
株式会社バリューブックスは、長野県上田市を拠点に、古本の買取・販売から実店舗、寄付、出版まで幅広く展開しています。
BOOKHOMEでは古本を供給するほか、新刊を含む書籍の仕入れや販売、買取を管理する書店システムを提供します。新刊と古書が一つの場所で巡る仕組みを支える役割です。

ミライ式
株式会社TricoLogicが運営する「ミライ式」は、考える力を育てる探究型の学びと、全科目の先取り学習を組み合わせた学習サービスです。
BOOKHOMEでは、教室という閉じた空間に限定せず、本と人が行き交う書店空間そのものを学びの場として活用します。子どもたちが「正解のない問い」に挑む力を育むことを目指します。

ベビTAM
株式会社成基が運営する「ベビTAM」は、生後3カ月から2歳0カ月までの子どもと保護者を対象とした親子教室です。
遊びや制作を通して感性と探究心を育み、親子で学び、触れ合える時間を提供します。子育てに関する情報発信や相談、絵本の読み聞かせなどのイベントも予定されています。

OrySNACK Kyoto
株式会社オリィ研究所が運営する「OrySNACK Kyoto」では、分身ロボット「OriHime」を遠隔操作する「パイロット」が、カウンター越しに接客します。
予約制の日本酒飲み比べエリアと、予約なしで立ち寄れるスナックエリアを設置する予定です。日本各地にいるパイロットが、京都の日本酒を蔵や地域の物語とともに紹介します。

てっぱんのスパゲッティ
株式会社鎌倉パスタが運営する「てっぱんのスパゲッティ」は、全国11店舗を展開する鉄板スパゲッティ専門業態です。今回が京都エリアへの初出店となります。
熱々の鉄板で仕上げるスパゲッティを、一人でも家族でも楽しめる店舗として展開します。

カレーショップファミリー
合同会社R meetが運営する「カレーショップファミリー」は、京都発のカレーブランドです。
昔ながらの親しみやすさとスパイスの風味を組み合わせ、鰹、牛骨、鶏白湯のだしを生かしたカレーを提供します。

おかずや きりん
株式会社コメミノルが運営する「おかずや きりん」は、日替わり弁当を中心に、おばんざいを販売します。
日替わり弁当の献立は1カ月ごとに案内する予定です。仕事帰りに、おばんざいとともにお酒を楽しめる利用方法も紹介されています。
大垣書店が語る、本屋を街に残すための挑戦
大垣書店の大垣守弘代表取締役は、全国で書店が減少することについて、本を購入する場所だけでなく、地域で知識や文化に出会う機会が失われることでもあると説明しています。
BOOKHOMEについては、本を販売する営みを大切にしながら、子どもから大人までが安心して過ごし、学び、人と出会える場所をつくる挑戦だとしています。本屋が街にあり続けるための新しいかたちを、京都から提案する考えです。

BOOKHOMEのプロジェクトリーダーを務める大垣守可取締役は、本屋を本の購入場所だけで終わらせず、本と過ごす時間そのものを豊かにすることを重視しています。
棚の前で偶然一冊と出会うことや、誰かが本を読んでいる気配を感じること。家や学校、職場とは違う場所で、自分の時間を取り戻すこと。こうした体験は、実際の場所だからこそ生まれると語っています。
読書する人を増やすためにも、まずは本に触れる時間や、本のある場所にいたくなる体験を増やすことが大切だとしています。BOOKHOMEが地域で長く利用され、近所付き合いが生まれる本屋になることを目指します。

<施設概要>
施設名称:BOOKHOME(ブックホーム)
開業予定日:2026年12月4日(金)
所在地:〒604-8147 京都府京都市中京区東洞院通六角下る御射山町262
運営:株式会社大垣書店
取扱商品:書籍(新本・古書)、学習・読書スペース、飲食、イベント、教育 等
営業時間:08:00– 23:00 (予定)
休館日:なし(施設点検日・年末年始指定日を除く)
公式サイト:https://book-home.jp/
本屋に行く理由を、日常の中へ増やす場所
BOOKHOMEが提案するのは、本を販売する機能を残しながら、書店で過ごす理由を増やす取り組みです。新刊や古書との出会いに加え、子どもの学びや親子の交流、食事、人との会話などが、一つの施設に組み込まれます。
複数のサービスが併設されるだけでなく、その中心に本が置かれていることも印象的です。本を探す人と、学びや食事を目的に訪れた人が同じ場所で過ごすことで、これまで書店との接点が少なかった人にも、本を手に取る機会が生まれるかもしれません。
書店を取り巻く環境が厳しさを増すなか、地域の暮らしに寄り添う場所として、書店の役割を組み立て直すBOOKHOME。2026年12月の開業後、「もうひとつの家」という考え方が地域の日常にどのように根づいていくのか、注目されます。

