未来の仕事や家族、老いを一人の人生から考える ロフトワークのSF思考体験「人生をプロトタイプする展」が渋谷で開催

未来を考えるとき、人口動態や市場規模、技術の進化といったデータは大切な手がかりになります。ただ、数字の先にいる人がどのような毎日を送り、何に悩み、どんな選択をするのかまで想像するのは簡単ではありません。AIが暮らしに深く入り込み、気候や家族、働き方のあり方も変化していくなか、未来の生活者を具体的な一人として思い描くことが、新しい商品やサービスを考える出発点になりそうです。

株式会社ロフトワークは、架空の少年の100歳までの人生を対話形式で追体験する「人生をプロトタイプする展 ―次の当たり前は、誰かの一生から見えてくる」を、2026年8月7日から9月10日まで東京・渋谷のFabCafe Tokyoで開催しています。SF思考の想像力を通じ、未来の社会を一人の生活者の視点から捉える体験型展示です。

2026年に生まれた「ミナト」とたどる100年の人生

展示の中心となるのは、SF思考から生まれた2026年生まれの架空の少年「ミナト」です。来場者が会場に設置されたディスプレイの前に立つと、未来の社会を生きるミナトが画面越しに語りかけてきます。

来場者が向き合うのは、ミナトが20歳、40歳、60歳、そして100歳を迎えた人生の節目です。それぞれの年代で、学びや仕事、食、家族や他者との関係、老いなど、その時々に抱えている悩みが打ち明けられます。

来場者はミナトとの対話を通じて選択肢を選びます。その選択によって人生の展開が変わり、一つに決められた未来ではなく、複数の「あり得る未来」へと物語が分岐していく仕組みです。

100歳までの人生を長い時間軸で見つめることで、社会の変化が一人の暮らしや価値観にどのような影響を与えるのかを、身近な問題として考えられるようになっています。

数字の予測を「誰かの経験」に置き換える試み

人口減少や気候変動、AIをはじめとするテクノロジーの進展は、これからの暮らし方や働き方を大きく変える可能性があります。一方、未来を数字やトレンドだけで考えていると、その社会で生活する人の感情や迷いまでは見えにくいものです。

今回の展示は、未来の社会を「その時代を生きる一人の人生」から捉え直す試みです。抽象的になりやすい未来についての議論を、ミナトの経験や選択を介して具体的に想像できるようにしています。

現在の延長線上だけでは把握しにくい社会変化を考えることは、新規事業や研究開発の現場でも重要になっています。生活者が何を大切にし、どのような場面で困り、何を選ぶのかまで考えることで、データや市場予測だけでは見つけにくいサービスやプロダクトの可能性も見えてくるかもしれません。

変わる社会と変わらない人間性を探る「SF思考」

ロフトワークが実践する「SF思考」は、サイエンス・フィクションの想像力を用いて未来を構想するアプローチです。テクノロジーや社会制度がどのように変わるかを検討するだけでなく、その環境のなかで人が何に迷い、何を願い、どのような行動を選ぶのかまでシミュレーションします。

AIの台頭や気候変動、人口減少など、かつてSF作品で描かれてきた未来は、すでに現実の一部になりつつあります。しかし、未来を正確に言い当てることだけがSF思考の役割ではありません。先の見えない状況に対して複数の可能性を想像し、選択肢を持てるようにすることが、その意義として示されています。

ミナトの人生には、社会や技術によって変化する部分と、時代が移っても残り続ける人間の普遍的な面の両方が映し出されます。その境界を探る体験は、未来の生活者を単なる顧客像としてではなく、悩みや願いを持つ一人の人間として捉えるきっかけになりそうです。

展示で得た気づきを事業構想へつなぐ企業向けツアー

会期中の2026年8月20日から9月10日までは、企業を対象とした「展示ツアー&ディスカッション」も実施されます。対象となるのは、SF思考や未来洞察、新規事業に関するプロジェクトを予定している企業です。

ツアーでは企画者による展示解説に加え、SF思考を用いた生活者像の構築方法や、未来洞察を事業構想へつなげる際のポイントが紹介されます。参加企業の課題を踏まえながら意見を交わすため、展示で得た気づきを実際の企画へ展開する場として位置づけられています。

企業向けツアーは事前予約制です。実際にプロジェクトを予定している企業を対象としており、競合企業や個人からの申し込みは断られる場合があります。一方、通常の展示鑑賞にツアーへの申し込みは必要ありません。入場料は無料ですが、会場ではワンドリンクの注文が必要です。

「次の当たり前」を一人の人生から考える時間

「人生をプロトタイプする展」は、未来を遠い時代の話として眺めるのではなく、そこで暮らす一人の悩みや選択に触れながら考えられる点が印象的です。新しい技術や制度が生まれても、人が家族や仕事、老いについて迷い、よりよい生き方を求める姿には、時代を超えて残る部分があるのでしょう。

事業づくりにおいても、未来の市場規模や技術動向を予測するだけでなく、その環境で生活者が何を感じるのかを想像する視点は欠かせません。ミナトとの対話で示されるのは、唯一の正解ではなく、選択によって枝分かれするいくつもの可能性です。2026年に生まれた一人の100年の人生を丁寧に想像する体験が、これから必要とされる商品やサービス、そして「次の当たり前」を考える小さな入口になりそうです。

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