
企業による生成AIの活用が広がる一方、「導入したものの、実際の業務には十分につながっていない」という悩みも見られます。質問に答えるチャットボットは用意できても、顧客情報の確認や担当部署への振り分け、受注後の処理までを一貫して任せるには、既存システムとの連携が欠かせません。多言語対応や営業時間外の問い合わせが多い地域では、こうした仕組みづくりがより重要になります。
そうした中、顧客エンゲージメントやマーケティングテクノロジーを手がけるAurora Mobileと、東南アジアでクラウドやデジタルサービスを展開するExabytesは、3年間の戦略的覚書(MoU)を締結しました。両社は、AIを単なる会話ツールで終わらせず、実際の業務を担う仕組みとして企業へ届けることを目指します。
3年間の提携で目指す「使えるAI」の普及
今回の提携では、Aurora Mobileが持つ企業向けAIアーキテクチャを、Exabytesのビジネスネットワークに取り入れることが検討されています。顧客対応や業務処理にAIを組み込み、より効率的な運用へつなげる考えです。
対象となる企業の規模や業種は幅広く想定されています。中小企業向けには、各地域の言語や商習慣に合わせたスマートカスタマーサービスを提供し、大企業や政府機関向けには、機密性や管理体制を重視したプライベート・ハイブリッド型のAIインフラを共同開発する方針です。
両社が向き合うのは、AIへの投資と実際の成果との間にある「AI実行ギャップ」です。AIを導入しても、中核となる業務フローから切り離されていれば、目に見える効果にはつながりにくくなります。そこで、企業の規模や既存環境に応じて、AIを日々の仕事へ組み込める選択肢を整えようとしています。
基調講演で示された「実行ボトルネック」

提携の発表にあわせて、Aurora Mobile創業者兼CEOのChris Lo氏は、「GROW AI Summit 2026」で基調講演を行いました。会場には500人を超える業界リーダーが集まり、Lo氏は「Gen AI Enterprise ― 眠らないエージェント」をテーマに、企業がAIの価値を引き出すうえでの課題を紹介しました。
講演では「AIジャーニーの3つのステップ」が示され、多くの企業は、AIが利用者の意図を理解できる段階には達しているものの、その先の行動へ移すための体系的な接続を欠いていると説明しています。
つまり、問い合わせ内容を読み取ることはできても、顧客管理システムから情報を探したり、必要な処理を進めたりする仕組みが十分に整っていない状態です。Lo氏は、東南アジアの企業が必要としているのは単なるチャットボットではなく、既存システムの中で実際に行動できるAIだと強調しました。
午前3時の問い合わせにも応えるAIエージェント
Lo氏は、国や社会が掲げるAI活用への意欲と、企業が実際にAIを運用する力との間に差がある状況を「マレーシアAIパラドックス」と表現しました。その具体例として挙げたのが、深夜にWhatsAppから届く顧客のメッセージです。
競合企業のAIが数秒で応答する一方、自社の問い合わせが午前9時まで待機状態になれば、顧客体験には大きな違いが生まれます。営業時間や担当者の負担に左右されず、必要な応答や処理を進められる体制は、企業の競争力にも関わる要素といえそうです。
Aurora Mobileのプラットフォームは、感情分析や過去の会話を引き継ぐメモリ機能を備えた多言語AIエージェントに対応しています。顧客の意図に応じた問い合わせ先の振り分けに加え、ERP(統合基幹業務システム)やCRM(顧客関係管理システム)との連携、24時間365日の応答を想定した設計です。
両社の強みを重ねた東南アジア向け基盤
今回の取り組みでは、Exabytesが持つクラウドインフラと、地域に合わせたマネージドサービスに、Aurora MobileのAIワークフロー自動化やオムニチャネル配信の機能を組み合わせます。メールやメッセージアプリなど複数の接点を横断しながら、AIが顧客対応や業務の流れを支えられる環境づくりを進める計画です。
Aurora Mobileが展開する「GPTBots.ai」と「EngageLab」も、この連携を支える役割を担います。GPTBots.aiは企業向けのAIエージェント基盤、EngageLabは顧客とのコミュニケーションを複数チャネルで支えるプラットフォームです。
Exabytes Group創業者兼CEOのChan Kee Siak氏は、2030年までに100万社のAI導入を支援するという目標に触れ、Aurora Mobileとの提携が実践的な導入の加速につながるとの考えを示しました。両サービスがExabytesの既存機能をどのように補い、企業のAI導入を業務成果へ結び付けられるかを探っていくとしています。
AIへの期待を日々の業務へつなぐ一歩
今回の提携で印象的なのは、AIの性能そのものよりも、「AIが実際に行動できる環境」を重視している点です。顧客の意図を理解するだけでなく、社内システムへ接続し、必要な情報を確認して次の処理へ進むことができれば、AIは単発の問い合わせ対応から日常業務を支える存在へ近づきます。
一方で、多言語対応や24時間運用、既存システムとの連携には、企業ごとのデータ管理や業務手順に合わせた設計が必要です。Aurora MobileのAI技術とExabytesの地域基盤を組み合わせる今回の枠組みは、そうした導入上の壁を低くする試みといえるでしょう。3年間の連携を通じて、中小企業から大企業、政府機関まで、それぞれの現場に合ったAI活用がどのように形になるのか注目されます。

