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都市の真ん中に現れた“神秘の森”。廃棄物から生まれたアートが描く新しい循環のかたち

日々の暮らしのなかで、「廃棄物」という言葉にポジティブなイメージを持つ人は、そう多くないかもしれません。役目を終え、不要になったもの。できるだけ減らすべきもの。そんな印象を抱くことが一般的ではないでしょうか。しかし、見方を変えれば、そこにはまだ新しい価値へとつながる可能性が眠っているのかもしれません。
そんな発想をかたちにしたパブリックアート展「神秘の森」が、東京ミッドタウン八重洲で開催されました。この企画では、企業から提供された廃材や不要となった素材を活用し、3組のアーティストがそれぞれの視点で作品を制作。都会の真ん中に“森”のような空間を生み出し、訪れた人がアートを通して循環や再生について自然に触れられる場となりました。
サステナブルという言葉を目にする機会は増えていますが、数字や課題として語られることが多く、どこか距離を感じることもあります。その点、今回の展示は「考えなければならないテーマ」として提示するのではなく、まずは空間として楽しみながら触れられるところが印象的です。

都市空間に広がったパブリックアート展「神秘の森」

「神秘の森」は、株式会社ACTA PLUSが手がけたパブリックアート展です。会場となったのは、多くの人が行き交う東京ミッドタウン八重洲。ビジネスや買い物、観光などさまざまな目的で人が集まるこの場所に、期間限定で幻想的な“森”の空間が広がりました。
今回の展示で使われたのは、本来であれば廃棄されるはずだった資材や不要となった素材です。それらがアーティストの手によって新たな作品へと生まれ変わり、「捨てる」だけではない価値のあり方を表現しています。
また、開かれた都市空間での開催という点も印象的です。目的を持って訪れた人だけでなく、仕事や買い物の合間に立ち寄った人、観光客など、幅広い来場者が自然と作品に触れられる場となっていました。
パブリックアートならではの、日常の延長でアートと出会える気軽さも、この企画の魅力だったようです。

廃棄素材から生まれた、3組のアーティストによる作品

会場では、3組のアーティストによる作品が展示され、それぞれ異なるアプローチで“再生”や“循環”を表現していました。

「HOSEKI」 大薗彩芳

私なんかよりずっと年上かもしれない、過去の記憶や思い出がたくさん詰まった廃棄物達。本来の使用用途を全うした廃棄されるもの達が、「宝石」のように七色に光り輝き脚光を浴びる。
物理的には形が100%表現されている訳ではない作品から、外に無限に拡がる大きな世界を感性や感覚で感じていただくことが、現代華道家である私が作る“いけばな作品”の特徴の1つです。実際の作品サイズよりも何倍にも何百倍にも拡張していく時空を越えた広大な世界観を感じとっていただけたら幸いです。

「Still Growing」 Yoko Ichikawa

かつて人々は自然の循環の中に静かに息づいていた。江戸という都市は廃棄をほとんど生まない社会として成り立ち、自然は壊す対象ではなく共に在る神聖な存在だった。しかし技術の発展は豊かさと引き換えに大量の廃棄物を生み、私たちは知らぬ間に自然を損なう側になってしまった。本作は役目を終えた素材を重ね、崩れゆく景色とそれでも芽生え続ける生命の姿を映し出す。人工物と自然が溶け合いながら未来の森へと姿を変えていく。

「息を建てる 虫瞰」 青沼 優介

近年の盛んな再開発で、街に出ればかなりの頻度で解体工事に出くわすようになりました。解体されていく建物は、大きな音を立てながら倒され、砕かれ、最終的に瓦礫として小さな石となる。その過程がとても興味深いです。なんとなく、自然界の死と生のプロセスと同じように感じます。動植物が死を迎えると、他の生物や土壌の栄養素となって分解され、またどこかで芽を生やす。コンクリートガラは分解された細胞のように見えます。解体が建築の死だとすると、 私は瓦礫から新しい建築としての生命を生やし、景色を作ろうとしているのです。

地域企業との連携で実現した共創型プロジェクト

今回の展示は、アーティストだけで完結する企画ではなく、地域企業との連携によって実現した取り組みでもありました。
作品制作にあたっては、三井不動産、イトーキ、イチマス田源といった企業が素材提供などで協力。企業活動の中で発生した不要資材が、新たな創作の材料として活用されました。
サステナブルな取り組みというと、企業単独の活動として紹介されることも多いですが、今回は企業・アーティスト・都市空間がつながることで、より開かれた企画になっていた点が特徴的です。
単に“廃材を再利用した”という話にとどまらず、異なる立場のプレイヤーが関わりながら新しい価値を生み出しているところに、このイベントならではの広がりが感じられます。

オープニングレセプションで広がった、新たな対話の場

開幕初日には、アートやサステナビリティに関わる業界関係者やクラウドファンディングの支援者を招いたオープニングレセプションが開催されました。
会場では、「神秘の森」を通じてACTA PLUSが目指す世界観や今後の取り組みが紹介され、参加者同士が交流する機会も設けられたそうです。展示を見るだけでなく、企画の背景にある考え方にも触れられる場となっていました。
参加者からは、アートを起点とした取り組みへの共感に加え、設備や製造といった“ハード”な施策とは異なる、文化づくりという“ソフト”の視点からサステナビリティに向き合う発想に可能性を感じたという声も寄せられたとのことです。

アートを通して触れる、循環というアイデア

廃棄物というと、どうしても“処理するもの”として考えがちですが、今回の「神秘の森」は、そこに新しい視点を与えてくれるような企画でした。
もちろん、アートが直接課題を解決するわけではありません。それでも、普段意識しづらいテーマに自然と目を向けるきっかけになるという意味で、こうした取り組みの持つ力は小さくないように感じます。
都市の真ん中に現れた幻想的な森。その空間を楽しみながら、少しだけ日常の見え方が変わる——そんな体験を届けるイベントだったのかもしれません。

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