
年齢を重ねても、自分の足で好きな場所へ行けること。それは、多くの人にとって当たり前でありながら、かけがえのない自由でもあります。特に地方では、車は生活に欠かせない存在であり、「運転を続けること」はそのまま日常を維持することにもつながっています。一方で、高齢ドライバーによる事故が社会課題として取り上げられることも増え、「安全に運転を続けるにはどうすればいいのか」という問いは、個人だけでなく社会全体で向き合うべきテーマとなっています。
こうした中、一般財団法人トヨタ・モビリティ基金、三次市、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社、マツダ株式会社は、交通事故死傷者ゼロを目指す「タテシナ会議」高齢者安全運転支援分科会の取り組みの一環として、2月28日に広島県三次市で「健康×安全ドライビングフェスタ」を開催しました。“運転をやめるか続けるか”ではなく、“どうすれば安全に続けられるか”という視点からのアプローチとして、注目される取り組みです。
地域・行政・企業が連携して支える “個人任せにしない”安全運転のかたち

「高齢者安全運転支援分科会」は、高齢ドライバーが安全に運転を続けられる社会の実現を目指し、運転の安全を個人の努力や責任に委ねるのではなく、クルマ・人・交通インフラの三位一体という考え方のもと、政府・自治体・地域住民・企業が連携して取り組みを進めています。クルマの安全技術の進化、人の気づきや行動の見直し、そして交通インフラや社会の仕組みによる環境づくりが、それぞれ役割を分担しながら機能することで、安全を支えていこうという考え方です。
三次市ではその実証実験として、2024年度より「三次いきいき安全ドライブ運動」がスタートしており、地域に根ざした取り組みが進められてきました。今回のフェスタは、その2025年度の活動の一環として開催されたもので、当日は150名を超える市民が参加しました。
会場では、レーシングドライバーの寺田陽次郎氏による「いつまでも元気に挑戦を続けられる秘訣」をテーマとした基調講演が行われたほか、これまでの活動成果の報告も実施されました。参加者が自身の運転や身体の状態を振り返り、今後の安全運転につなげるきっかけとなるような内容となっており、“個人任せにしない安全運転”という考え方を体感的に理解できる場となっていたようです。
データで“危険”を見える化 運転のクセと地域リスクを可視化

今回の取り組みでは、データやテクノロジーを活用し、運転に潜むリスクを“見える化”する試みも進められています。2024年度に引き続き、車の挙動を測定する車載器「ADテレマティクスタグ」によって収集された走行データをもとに、市内の高齢ドライバーの運転特性や、地域ごとの交通危険ポイントを示した「交通安全マップ」が更新されました。自分では気づきにくい運転のクセや、事故が起こりやすい場所を客観的に把握できる点は、大きな特徴といえそうです。
さらに2025年度の新たな取り組みとして、ドライブレコーダー映像とAI解析を組み合わせた「ドラみる」が活用されました。実際の走行映像をもとに、急ブレーキが発生している場所や場面を具体的に提示し、どのような状況でリスクが高まるのか、またどのように回避すればよいのかを分かりやすく整理しています。これにより、“なんとなく危ない”という感覚を、より具体的な理解へと落とし込む工夫がなされているようです。
加えて、声から日々の心身の状態を測定する「音声バイオマーカー」の分析結果も紹介されました。運転技術だけでなく、その日の体調やコンディションが安全運転に影響することを示すものであり、運転とドライバーの状態が密接に関係していることを改めて実感させる内容となっています。
“気づく”から始まる安全運転 体験型プログラムの価値

こうしたデータや分析による理解に加え、会場では実際に体験しながら自分の状態を知ることができるプログラムも用意されていました。脳体力や脚力、空間認知力といった、安全運転を支える基礎的な力の測定やトレーニングが行われ、高齢ドライバーが長く安全に運転を続けるために必要な要素を、体感的に捉えられる内容となっていました。
また、車の安全技術を実際に体験できるコーナーも設けられ、日常の運転を支えるテクノロジーへの理解を深める機会にもなっていたようです。単に知識として学ぶだけでなく、自分自身の状態に気づき、具体的な行動につなげていく——そんな“気づき”のきっかけを提供する場として、今回のプログラムは機能していたといえそうです。
こうした体験を通じて、参加者は「三次いきいき安全ドライブ運動」への理解と関心をより深めていった様子であり、安全運転を自分ごととして捉えるきっかけにもなっていたのではないでしょうか。
実証から“社会実装”へ 全国展開も視野に
今回の取り組みは、単発のイベントにとどまらず、今後の展開も見据えたものとなっています。2026年度には、これまでの実証で得られた知見をもとに、ツールや施策を組み合わせた安全運転トレーニングプログラムの効果検証が進められる予定です。
また、「タテシナ会議」高齢者安全運転支援分科会では、今後も関係者との連携を深めながら、交通安全への意識や関心の醸成を図り、地域の取り組みを全国へと広げていく方針です。
交通事故死傷者ゼロという目標に向けて、実証から社会実装へと歩みを進めている点にも注目が集まりそうです。
「やめる」だけじゃない選択肢 これからの運転との向き合い方
高齢ドライバーをめぐる課題は、「危険だからやめるべきか」という単純な問いでは語りきれない側面を持っています。生活に密接に関わる移動手段であるからこそ、“どうすれば安全に続けられるか”という視点での取り組みが、これからますます重要になっていくのではないでしょうか。
今回のフェスタでは、データやテクノロジーによる可視化と、体験を通じた気づきの両面から、安全運転を支える新しいアプローチが提示されていました。個人の努力に頼るのではなく、地域や社会全体で支えていくという考え方は、多くの人にとって現実的で前向きな選択肢として映るはずです。
運転を続けることの安心と、その先にある日常の豊かさ。その両方を守るためのヒントが、こうした取り組みの中に見えてきているのかもしれません。自分自身や身近な人のこれからを考えるきっかけとして、改めて注目してみたいテーマです。
