
就職活動で企業について知ろうとしても、説明会や採用サイトから伝わってくるのは、きれいに整理された情報が中心です。学生からは「実際にどんな人が働いているのだろう」「若手社員の本音を聞いてみたい」といった声が上がる一方、企業側にも「短い説明だけでは仕事の面白さが伝わらない」「学生の人柄や熱意を知る機会が少ない」という悩みがあります。特に、一般消費者との接点が少ないBtoB企業や地域の中小企業にとって、知名度に左右されやすい採用活動は小さくない課題です。
こうした企業と学生のすれ違いを、こども向けの職業体験を一緒につくる過程からほどいていこうという企画が始まります。みらいのたからばこ実行委員会は、2026年12月5日と6日に大阪市のATCホールで「みらいのたからばこ2026 in 大阪」を開催。初日の午前には、大学生や専門学校生を対象とした「就活First Step ver. 〜“おもろい”から拓けるわたしの進路〜」が新設されます。
合同説明会だけでは見えにくい企業と学生の素顔

「みらいのたからばこ」は、地域・行政・企業・大学が協力し、こどもたちに仕事を体験する機会を届ける地域密着型のプロジェクトです。これまで全国17会場で開催され、累計来場者は約10万人、出展した企業・団体は400社、学生ボランティアは600人にのぼります。
出展企業の5割以上がBtoB企業、7割以上が中小企業です。普段は仕事内容を直接知ってもらう機会が少ない企業にとって、地域の親子や学生と接点を持てる場にもなってきました。
その運営を通じて見えてきたのが、従来の就職活動における企業と学生のミスマッチでした。企業は説明会で良い面を中心に伝えざるを得ず、限られた時間では学生の個性や意欲まで把握しにくい状況があります。学生も、パンフレットに並ぶ情報だけではなく、現場で働く若手社員の姿や率直な声を知りたいと考えています。
そこで今回の企画では、企業を一方的に説明するのではなく、学生と若手社員が「仕事の魅力を、どうすればこどもたちに伝えられるか」を一緒に考えます。何かを教える側として協力することで、普段の説明会とは異なる人柄や仕事への向き合い方が自然に表れそうです。
半年間の共創から生まれる深い相互理解

特徴の一つは、イベント当日だけで関係が完結しないことです。6月から12月までを事前共創期間とし、参画企業と学生が定例会などで意見を交わしながら、こども向け職業体験の企画を磨いていきます。
自社の仕事を初めて知るこどもにも分かるように伝えるには、専門用語をかみ砕き、どの部分に楽しさや社会的な意味があるのかを考えなければなりません。この過程は、学生にとって業界や仕事を表面的なイメージだけで判断せず、身近に捉え直す機会になります。
企業側も、学生が何に興味を持ち、どのような発想で企画に参加するのかを継続的に見ることができます。説明を聞く側と話す側に分かれるのではなく、同じ目的に向かって手を動かす時間が相互理解につながる仕組みです。これまでの活動からは、学生がインターンとして入社した事例も生まれています。
若手社員が「教える側」になって気づく自社の役割

この取り組みは、採用活動だけでなく、若手社員の育成にもつながるものとして設計されています。こどもや学生に自社の魅力を伝える側になることで、社員自身が仕事の意味や会社の役割をあらためて整理するきっかけになります。
過去の出展企業には、各支社から新入社員を集めてチームをつくった企業や、入社3年目ほどの若手社員をリーダーに据えた企業、部署を越えた交流の場として活用した企業もありました。社歴の浅い社員が企画をまとめ、異なる立場の参加者と対話する経験は、リーダーシップや社内コミュニケーションを学ぶ機会にもなります。
さらに、入場料・参加費・材料費をすべて無料とし、こどもの体験格差を減らすことも活動の大切な柱です。行政や教育委員会の後援を受けて地域に仕事の魅力を届ける取り組みは、企業が地域社会で果たす役割を伝える場になります。学生記者によるインタビュー記事など、イベント後も活用できる発信素材が生まれる点も特徴です。
Z世代とα世代を時間帯で分けた二つの体験

2026年の大阪開催では、Z世代とα世代の参加時間を分け、それぞれに合った体験を提供します。12月5日の午前10時から午後0時30分までは、大学生・専門学校生約500人を対象とした「就活First Step」が行われます。
学生は企業ブースで若手社員らと自由に対話し、こども向けに用意された仕事体験にも参加します。商品やサービスだけを見るのではなく、その背景にあるビジネスの仕組みや、働く人の誇り、仕事への思いに触れられる時間です。さまざまな業界をフラットに見比べることで、それまで知らなかった企業や職種と出会う可能性もあります。
同日午後から6日にかけては、こどもと保護者約3,500人を迎える通常の職業体験が開かれます。午前中に企業や仕事への理解を深めた学生の一部は、ボランティアとして企業ブースに加わり、今度はこどもたちに仕事を教える役割を担います。「体験する側」から「伝える側」へと立場が変わる流れが、今回の企画ならではの仕掛けです。
三者の声から生まれた新しい進路との出会い方

みらいのたからばこ実行委員会の統括を務める見谷麗さんは、2023年から学生ボランティアと関わるなかで、「就活前にもっと自分の世界を広げたい」「自分たち向けのたからばこを開催してほしい」といった声を聞いてきたと説明しています。
学校からは、学生が多様な選択肢に触れられるよう受け入れ人数を増やしてほしいという要望があり、出展企業からも、より多くの学生やキャリア担当者に自社を知ってもらいたいという声が寄せられていました。今回の企画は、学生・学校・企業という三者の要望が重なって生まれたものです。
イベントは2026年12月5日と6日にATCホールで開催され、就活First Stepは5日午前のみとなります。すべての参加者が無料で入場・体験できる予定です。
「会社を知る」から「一緒につくる」への小さな転換
企業が用意した説明を学生が聞くだけでは、仕事の手触りや、そこで働く人の考え方まで知ることは簡単ではありません。今回の取り組みで印象的なのは、こどもたちに仕事の魅力を届けるという共通の目的を置き、企業と学生が半年かけて一緒に企画をつくる点です。若手社員にとっては自社の役割を言葉にし直す機会となり、学生にとっては企業名や業界のイメージだけでは見つけられなかった進路に触れるきっかけになります。さらに、その成果がこどもたちの職業体験として地域へ還元されることで、採用、社員育成、社会貢献が一つの流れにつながります。すぐに就職先を決める場ではなく、働く人と協力しながら自分の関心を確かめる場があることは、学生が将来を考えるうえで心強い選択肢になりそうです。

