
セルフレジや無人店舗が身近になる一方で、店舗側には新たな悩みも生まれています。「商品は売れているのに、どのようなお客様が買ったのか分からない」「常連客の存在に気づけない」「会員アプリへの登録をお願いしても、手間に感じられてしまう」。会計の省人化が進むほど、これまで接客を通じて得られていた顧客との接点が少なくなりやすいからです。
POSレジには「何が、いつ、いくつ売れたか」が記録されますが、その購入が誰によるものなのかまでは通常分かりません。こうした匿名の購買データを、店舗運営に生かせる顧客データへ変える仕組みとして、顔認証AIを開発する株式会社FACE-SYSTEMは、顔認証とPOSの取引情報を連携するサービス「F-POS」を発表しました。2026年8月5日から「スマレジ・アプリマーケット」で提供されており、店舗に設置したスマートフォンを使って購入者を識別します。
POSデータに欠けていた「誰が買ったか」の情報
小売店や飲食店では、人手不足への対応や会計時間の短縮を目的として、セルフレジの導入が広がっています。利用者が自分で会計を済ませられる便利さがある反面、スタッフと顧客が言葉を交わす機会は減少します。
会員カードや店舗アプリを利用すれば、購入履歴を顧客ごとに管理できます。しかし、カードの提示やアプリのダウンロード、個人情報の入力といった作業は、すべての来店者に受け入れられるとは限りません。登録されなかった取引は匿名の売上として残るため、来店頻度やリピーター率を把握することも難しくなります。
「F-POS」は、こうしたセルフレジ時代のデータ不足を補うサービスです。顔認証によって来店者を識別し、POSレジに記録された取引時刻と照合することで、購入履歴を顧客単位で蓄積できるようにします。
スマートフォン1台から始められる顔認証とPOSの連携

「F-POS」の利用時には、レジの前にカメラとして使用するスマートフォンを設置します。来店者がカメラの前を通ると顔を検知し、その情報とPOSレジの取引時刻を組み合わせて購入者を特定します。
顧客は会員カードを提示したり、専用アプリをダウンロードしたりする必要がありません。店舗スタッフも通常どおりレジを操作でき、データの照合作業は夜間に自動で行われます。接客や会計の流れを大きく変えずに利用できる点が特徴です。
専用設備を取り付けるための工事も必要なく、市販のスマートフォン1台から計測を始められます。スマレジを利用している店舗では、取引情報の取得から会員登録、購買履歴の紐付けまでが自動化されます。アプリマーケットへの公開により、店舗ごとに新たなシステムを開発しなくても導入できるようになりました。
無人決済店舗で購入者の98.8%を特定

実証実験は、井口智明氏が運営する無人決済店舗「min・naka小田急相模原店」で行われました。同店舗では、FACE-SYSTEMが提供する入退店管理サービス「F-DOOR」も使用されています。
実証では、設置後に行われた267件の取引のうち、264件で購入者を特定しました。捕捉率は98.8%です。また、確認されたユニークユーザー248人のうち、48人が2回以上来店しており、リピーター率は19.4%となりました。
会員情報との自動連携では、対象となった180件を処理し、エラーは0件だったとしています。特別な工事や店舗専用のシステムを使わず、標準的な構成で得られた結果です。顔認証AIはFACE-SYSTEMが自社開発しており、店舗の照明やレジ周辺の環境に応じた精度改善にも対応できると説明しています。
プライバシーへの配慮と店舗側に帰属するデータ
顔認証を店舗で利用するうえでは、利便性だけでなく、取得した情報がどのように扱われるのかも重要になります。「F-POS」のカメラは、店内に設置される防犯カメラに準じた運用を前提としています。
取得したデータを第三者へ提供することはなく、データの帰属は導入店舗側にあるとされています。契約が終了した際には、保存されているデータをすべて消去します。
また、顔認証を実施していることを来店者へ知らせるため、店内掲示物の文面を用意する必要があります。FACE-SYSTEMは、その雛形を無料で提供し、店舗側の告知対応を支援します。顔認証を使っていることやデータの取り扱いを分かりやすく示し、来店者が確認できる状態にしておくことが欠かせません。
店舗規模に応じて選べる2つの料金プラン
スマレジ・アプリマーケットでは、月額41,800円(税込)の「スタンダードプラン」が提供されています。顔認証によるリピーター分析と会員情報への自動紐付けに対応し、カメラとして使用するスマートフォン1台が料金に含まれます。
1店舗あたりの月間利用人数が1万人以上の場合は、月額74,800円(税込)の「ビジネスプラン」が用意されています。スマートフォンを追加する場合は、2台目、3台目ともに1台あたり月額8,800円(税込)です。
スマレジ以外のPOSレジについても、CSVデータを使った連携に対応します。ただし、店舗環境によって料金が異なるため、個別の問い合わせが必要です。
会計の省人化と顧客理解を両立する選択肢
セルフレジは店舗と利用者の双方に便利な仕組みですが、人を介さずに会計できるからこそ、顧客の姿が売上データから見えにくくなるという側面があります。「F-POS」の特徴は、新たなカードやアプリを来店者に求めず、すでにあるPOSの取引情報に顧客単位の視点を加えられることです。
FACE-SYSTEMはこのほか、入退店を制御する「F-DOOR」、来店者を分析する「F-DATA」、リピーターへの接客を支援する「F-SERVICE」を展開しています。今後は「F-SERVICE」と「F-POS」などを組み合わせ、来店から購入までを一人の顧客の行動としてつなぐ基盤の構築を進める方針です。省人化による効率を保ちながら、常連客への理解や接客の工夫にもつなげられるかが、今後の店舗運営を考えるうえで注目されそうです。

